ミリオン級潜航艦二番艦「ノイマン」の策謀と陰謀

第6部 プロローグ

飽くことなきグレードゲームの再来

 地球連邦が直面した危機において、連邦宇宙軍が特別な重要性を持ったのは、自然と言えば自然なことだった。

 そもそも宇宙軍が持っていた性質は、最初期には地球上のどこへも自在に攻撃が可能になる、という性質だった。衛星軌道上から攻撃することもできれば、地上部隊を送り込むことさえも可能だった。落下傘部隊などというものも過去にはあったが、現代戦では機甲部隊を弾道ミサイルにパッケージし、迅速に投入する作戦さえ存在した。連邦の成立後もその機能は維持されていたが、それよりも宇宙自体が戦場に近い場所になったがために、相対的に目を向けられなくなった。

 地球連邦の成立から長い時間を経て、ついに連邦は宇宙が主戦場となる時代を迎え、独立派による蜂起から始まる混乱において、近衛艦隊からでさえも脱走艦が続出するに至ったことで、地球至近、その中でも汎用攻撃衛星が周回する軌道上の再掌握が、まずは至上命題となった。地上への攻撃の脅威を防がなくては、いつ自分がそうと知らぬ間に超高熱で土壌ごと蒸発しているかもしれないのだ。

 連邦宇宙軍の内部で複雑な権力闘争が起こったのは、一方から見れば絶好の好機だった。独立派から見れば、ということだが、この好機を独立派は生かさなかったのではなく、むしろ十二分に生かしたと見るべきだ。独立派は混乱の最中の地球連邦を攻撃しない、という戦い方を選んだ。地球連邦の混乱が長く続くことを好機として生かした、とも言える。独立派が戦乱を望まないのが、この事実にも表れている。彼らはどこまでも自由を望み、解放をこそ求めていたのだから、地球を攻撃する理由は少しもないのだ。

 連邦宇宙軍の統合本部と総司令部の混沌とした混乱に、管理艦隊が遠くから関わっているのは、宇宙が戦場となったがためで、それでも局面が少しでも違っていれば、管理艦隊は疎遠にされ、あるいは軍閥化したかもしれないと見る向きもあるのは、一つの主張として意味を持つ。軍閥となることを管理艦隊が望むと望まないとに関わらず、管理艦隊は補給線という面では、連邦宇宙軍がほぼ全てを握っていたし、その一点で管理艦隊は連邦宇宙軍と共同歩調を取るかどうかの選択権を持たず、存続のためには形の上では束縛されていたのだ。それもかなり厳しく。補給という点を無視すれば、管理艦隊は連邦宇宙軍に養ってもらう別働隊にもなれたし、それを拒否すれば連邦宇宙軍と縁を切って、本当の軍閥になっている未来もあった。机上の空論という指摘を受けることは間違いないが、ここにそう記すこともできるほど、事態は流動的な時代だった。

 現実には、この時代、連邦宇宙軍には管理艦隊を放っておく理由がなかった。むしろ積極的に活用し、身内に取り込みたいほどだった。その兵力が欲しい、という切迫した事実が、管理艦隊に選択の不自由と裏腹に、ある程度の自由を与えた。

 連邦宇宙軍の混沌とした権力闘争は、管理艦隊にはある意味では渡りに船だが、これに相乗りしたことで、常に管理艦隊は連邦宇宙軍の動向に左右されることになる。ここまでの展開を詳細に見通すのは不可能だったし、誰にも予測不可能な事態が、現実に展開されたのもまた事実である。

 管理艦隊の政治的立ち位置もまた、こうして自ずと定まっていったが、管理艦隊の紆余曲折の活動の口火を切った事態には、ミリオン級潜航艦二番艦「ノイマン」が顔を見せている。




(オリエント戦史学会刊行「グレートゲームの再来に関して」に掲載のロン・ヤオ著「管理艦隊は何を選ぶことができ、何を選ぶことができなかったのか」より抜粋)

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