第2話 真相

俺は何をやっているんだろう…。

休み時間に女生徒の後をつける男子生徒の図。

周りから見れば完全に不審者だ。

しかし、俺が菅原と八木にやってきた嫌がらせに比べれば、これくらいどうってことはない。

本当に、俺は誰に言い訳をしているんだろうな…。


教室を出た根岸は、そのまま靴を履き替えて、北校舎の裏へ向かって歩き始めた。

この時間に北校舎の方へ行っても、何かあるわけではない。

ましてや校舎裏、つまり人気がない場所だ。

昼休み明けの授業は教室のはずだし、ここに来る理由はたぶん…。

「へぇ、穂波ちゃん。逃げずにちゃんと来たじゃん」

「今まで散々無視してくれたもんね。ほなみん♪」

「……」

あの2人は確か、前に沙代ちゃんが言い争っていた2年生の2人と…。

「ほなみん…」

「穂波…」

いつも根岸と一緒にいる2人…。

さっきの2年生2人の発言から察するに、とても楽しい状況とは言えないだろう。

「穂波ちゃん、また一緒に図書室でお話しようよ?」

「最近はほなみんがいないからさ。そこの2人もあんまり会話に混ざってくれないんだよね」

「お断りします。私はもう何を言われても、そちらに戻る気はありませんから…」

「…へぇ、穂波ちゃん。随分言うようになったじゃない?」

「じゃあ、この動画、グループで拡散させてもいいんだ?」

「うっ…それは…」

先輩の1人がスマホの画面を根岸の方へ向ける。

根岸の顔が徐々に青くなっていった。

「何?菅原君に怒られて、今更怖くなっちゃったの?」

「そりゃあ?八木さんの私物を窓から捨てるくらいだもんね。はっきり言って、それっていじめじゃない?」

「それは…!先輩達が、やらないと私の秘密を言いふらすって言うから仕方なく…!」

「私達が悪いって言うんだ?アンタのそういう私は悪くないっていう態度、本当にムカつくんだよね」

あの2人が話しているのは、八木の手袋の件だろう。

菅原は窓から投げた犯人が根岸だと言っていた。

しかし今の内容だけ聞くと、実際に投げたのは根岸だが、唆したのはあの先輩2人だという風に聞こえる。

「そうすればいいんじゃないかって言ったのは確かに私達だし?私達も悪いかもしれないけどさ。実際にやったのはほなみんじゃん?実際にこうやって動画にも残ってる訳だからさ」

「人の私物を窓から投げ捨てる、いじめまがいな事をする下級生と、私達2人。グループの人達が知ったら、どっちの味方するだろうね?」


「それでも!それでも私は!誰かからあんな目を向けられるのは、もう嫌なんです!」


根岸の悲痛な叫び声が辺りに響いた。

その声は、八木に謝罪していた時とほぼ同じ。

自分の罪を懺悔するような、悲しみの色に塗られた、心からの叫びだった。

「だから、アンタのそういう態度がムカつくって言ってるのよ!」

先輩のうちの1人が血相を変えて根岸に近づいていく。

その瞬間、俺も勢いよく、根岸の方へと足を踏み出していた。


「前にも、暴力はよくないって言いませんでしたっけ?」

振りかぶった先輩の右手掴んだ俺は、そのままつまらなそうに先輩を睨みつける。

「なっ、あんたは…!」

「清水…君…?」

突然現れた俺の存在に、その場にいた全員が唖然としている。

本当は飛び出す気なんてなかったのだが、先程の会話を聞いて、気が変わった。

「ほんと、本人がいない所でコソコソするのが大好きなんですね」

「くっ…!」

話を盗み聞きしてしまったことも、平然とこの状況に乱入してきたことも、ついつい煽り気味な言葉遣いになってしまったことも、我ながらおかしいと理解している。

だけど前回は沙代ちゃんが被害に合いそうになった。

今回も事情が事情だから、今の俺に引き下がるという選択肢は存在しない。

「俺としては、あんまり事を大きくしたくはないんですが、今回も引いてもらえませんか?」

「あ、あんたには関係ないでしょ!」

「別に、関係ないことないんですよ…」

「はぁ?」

「だって、菅原と八木ちゃんの仲を取り持ったのって、俺ですから。噂にしてたくらいだから、てっきりご存知だと思ってたんですけど…」

「えっ…嘘…」

俺の言葉にイラつく先輩と、唖然とする根岸。


『あれじゃないの。友達のほうに近づいてさ、うまいこと取り入ったんじゃない』

『多分さ、清水くんと仲良いじゃない。八木さんって。だから、清水くんに菅原くんとの仲取り持ってもらったんじゃないの』


あぁそうだよ。

関係大ありだよ。

俺が身勝手な恋をしなければ。

菅原と八木をくっつけようとしなければ。

こんなことにはなっていなかったのだろうから。

結果的に2人が幸せになってしまったのなら、俺には、その幸せを少しでも長く続くように影ながら応援してやることしかできない。

菅原が後悔しない為に、八木が笑顔でい続ける為に。

今はその結果が禍根になって、根岸を苦しめている。

だったらこの状況も、俺が収拾しなければならないのだ。


「もし先輩達が、今後あの2人について変な噂を流したり、危害を加えるような真似をするのなら、その時は俺も、容赦はしませんから」


自分とは思えないくらい低い声が、辺りを支配した。

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