第6話 ごまかし
翌日、俺は居間の雑誌ラックにあったくたびれた住宅地図を持って出かけた。
目指すはサキ姉ちゃんの家だ。
一晩考えても、クソババアやサキ姉ちゃんの心理が俺には分からなかった。
別に他人のことなのだし、どうでもいいじゃないかと言われそうだし、自分でも思う節はあった。
けど、彼女たちの気持ちを分からないという事態が、俺が抱えている問題の本質に絡んでいる気がしてならなかった。
愛されるきのこになるためには、避けられない悪い俺を超えるために、知らなければいけない気がしたので
だから、もう本人に直接聞いてみようと思い立ったのだ。
クソババアは触れれば切れるジャックナイフなので、面識はないが何となく穏やかな人となりっぽいサキ姉ちゃんの方に当たることにした。
明日には眼鏡のアパートに帰らなければならないので、チャンスは今日だけ。
クソババアに見つかると厄介なので、バレないよう、こっそり家を出た。
地図一枚を頼りに知らない村を探検するのは、何だか無性にワクワクする。
自然豊かな環境もあいまって、「となりのトトロ」のメイちゃんになった気分だ。
あの陽気なOPが脳内で流れて、行進したくなる。
さあ、この角を曲がればサキ姉ちゃんの家。
意気揚々と進む俺の腕を、突如として枯れ木のような手が引き留めた。
「どこいくんじゃ、おめえは」
振り返るとクソババアがいた。
家の中にいるサキ姉ちゃんの耳に届かぬよう、声を押し殺している分、余計にドスがきいている。
胸に大事に紫色の風呂敷包みを抱えているが、中に髑髏でも入れてそうだ。
こういう時、何と誤魔化せば良いのだろう。焦る頭で必死に考える。考えろサツマ。
そうだ、屁理屈と言い訳の達人、眼鏡なら何と答える?
「……うんこしたい」
「ふざけてんのかい? 嘘つくんじゃないよ」
恥を忍んで発した捨て身の一言を一蹴された。
悲しい。言わなきゃ良かった。
眼鏡のクソ野郎。
「う、嘘じゃありません。本当にうんこしたいです」
「だったら早くうちに帰ってしな!」
ごもっともです。
ここでクソババアに出くわしてしまった以上、諦めて出直すしかないか。
それともいっそ、どうせ怒られているのだし、クソババアに聞いてみるか。
やけっぱちになりかけた時だった。
穏やかだがよく通る優しげな声が角の向こうから聞こえた。
「お手洗いならうちのをお使いなさい。今からキミちゃんち戻ったら間に合わないでしょう。まだ若いのに、かわいそうよ」
サキ姉ちゃんの家の方角から、小柄で色白で、豊かな白髪が美しい老婦人がゆっくりと歩んできた。
片足を引きずるようにしている。
「サキ姉ちゃん! 足の調子は平気なのかい?」
クソババアが自分の杖を俺に押し付け、老婦人に駆け寄った。
「まだ痛むけど、もう歳だし仕方ないね。えっと薩摩くん? 社会的に死んでしまう前にうちの御手洗を使いなさい」
本当は別にトイレに行きたくなんてなかったのだが、引くに引けず、俺はサキ姉ちゃんの家のトイレを借りる羽目になった。
元々サキ姉ちゃんの家に用事があったらしいクソババアもついてきて、ぶつぶつと小言を言ってくるのがたまらなかった。
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