第3話 きのこvsクソババア

 神社というこの国特有の宗教施設が俺は正直苦手だ。

 先に断っておくと、神社自体は一切悪くない。

 ただ、先日ルサンチマン王国に帰還した入り口が神社だったから、どうしても朱色の鳥居や静謐な境内に入るとルサンチマン王国での辛い記憶を思い出してしまうからという理由でだ。


 クソババアに言ったところで、お構いなしだろうから、敢えて口にはしないが。


 クソババアは参道をズンズンと歩く。

 杖が要らないのではないかと思える力強い足取りだ。

 俺なんて存在してないみたいに、黙って勝手に進んでいく。


「あの、さっきの話、何だったのですか? クソバ……グランマには力がないとか、昔のこととか」


 クソババアは振り返りもせず、吐き捨てる。


「ガキには関係ないよ」


「でも……」


「でも何だい?」


「だって気になる」


 キッと鬼婆のような形相でクソババアは振り向いた。つかつかと引き返してきて、俺の正面に立つと、杖の先で俺の向こう脛を小突いた。


「人の秘密に興味本位で首突っ込むんじゃないよ。あんたそんなんだから、故郷を追われたんじゃないのかい?」


 鋭い言葉のナイフが突き刺さった。不意打ちに、無防備だった心にたちまち痛みが広がり、ドクドクと血が流れるような感覚がした。

 反射的に声を荒げてしまう。



「うるさい! それこそ貴様に関係ないだろ! 平和で文明の進んだこの国で生きてきたわがままババアのくせに、知ったこと言うな!」


 クソババアの眉間に深いシワが刻まれたが、俺は止まれなかった。


「大体貴様こそ、甘っちょろい世界でわがまま放題に生きてきたから、そんなクソババアになったんだ。俺の本当のお婆様は優しく穏やかな人だった」


 猛反撃を受けるかと身構えたが、クソババアはむしろ哀れむような目で俺を見上げると、くるりと背を向けて、再び本殿に向かって参道を歩き始めた。


「嫌ならついてこんでいいわ」


 と言い捨てられたが、老人一人を置いていく訳にもいかず、俺はクソババアが参拝を終えるまで鳥居の横にしゃがんで待っていた。


 二人とも一言も喋らないまま、家に帰ると、両親が夕飯の準備をして待っていた。

 田舎の夕飯は早い。


 とても気まずかったので、そそくさと夕餉を平らげ、片付けの手伝いを終えて風呂に入った。


 さっきのクソババアの顔が目に焼き付いて離れない。


 俺を哀れむな。


 俺はかわいそうなんかじゃない。


 眼鏡に比べて恵まれていないかもしれないけど、だからと言って、比較して不幸だと他人に決め付けられるものではないはずだ。


 もやもやした気持ちのまま、脱衣所に出るとパピィが待ち構えていた。

 眼鏡によく似た気持ちの悪い笑顔と手つきで、提案される。


「さっちゃあん。お風呂気持ち良かった? パピィが体拭くの手伝ってあげるよ⭐︎」

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