第2章 そうだ、イオ◯に行こう!

第1話 ジャ◯コじゃなくイ◯ン

 同居生活にも慣れてきた金曜の夜。


 いつもどおり退勤後、直帰してきた俺にサツマ様は話があると切り出した。


 今日も日中は部屋の片付けをしていてくれたみたいで、大分片付いた居間ではテレビがついている。

 バラエティ番組がやっていて、ひな壇には旬のタレントたちが並んでいた。

 彼らを指差し、サツマ様は言った。


「俺もこういう服が欲しい」


 異世界からやってきて以来、奴には日中は俺の高校時代のジャージ、寝る時は中学時代のジャージを着せている。

 元着ていた近衛師団の軍服だという厨二爆発衣装は乾燥機で縮んでしまったので、押し入れの中だ。

 中のTシャツだけは代えないとと不衛生なので、警察学校時代につくったダサTシャツと昔ハマってたけど、今は飽きて絶対着ない美少女アニメのフルグラTシャツをローテーションさせている。


 サイズが同じなのだから、俺の服を貸しても良いじゃないかと言う諸君。

 俺はこう見えて潔癖なので、他人に服貸したくないの。他人じゃないような存在であってもね。

 それに二人で使い回すと、服が傷むの2倍速になるし。


「どうして? ジャージ嫌いか?」


 ふるふると首を横に振った。


「着心地は良いから、部屋着や寝巻きには良いと思う。しかし、世間ではこの衣は格好が悪いとされているのではないか? 眼鏡、お主もジャージでは絶対に外出しないよな」


 あ、気づいちゃったか。


 テレビの中では、場面変わって、芋ジャージを着た芸人たちがコントをしていた。

 全くテレビは教育に良くない。


「そうか? ジョギング行く時は俺もジャージじゃん」


「もっとシャカシャカしてて、黒くてスタイリッシュなの着てるよな? ゼッケンもついてない」


 奮発して買った有名スポーツメーカーの着てる。鋭いな、こいつ。

 だから服が欲しいとサツマ様は繰り返した。


 適当に言いくるめても、その場しのぎにしかならないか。

 幸い21世紀の日本にはファストファッションというコスパ優秀な服屋が大量にある。


「じゃあさ、明日ジャ◯コ行こうぜ。あそこなら服売ってるし、食材も買えるし、飯も食えるよ」


 休日は地元のマイルドヤンキー一家のたまり場化しているのは、地元嫌いの独身インキャとしてはいただけないが、できるだけ金と時間を使わずにこいつを満足させるにはジャ◯コが一番手っ取り早い。


「ジャ◯コ?」


「何でも売ってるでかいショッピングモールだよ。ほら、うちからも見えるだろ? 赤っぽい看板のでかいビル」


「……イ◯ンって書いてあった気がする」


「今はカッコつけてそう名乗っているが、あれは元はジャ◯コだから。良いんだよ、ジャ◯コで」


「ふーん」


 一つ賢くなったと言いたそうな満足げな表情で、サツマ様はモゾモゾと膝を崩し、体育座りした。

 芋ジャージスタイルだと、闇深い感が抜けて親しみやすいんだけどなあ、と思ったが、本人が嫌ならしょうがない。


 かくして、翌土曜日、俺たちは連れ立ってジャ◯コ、じゃなくてイ◯ン川岸店に向かった。

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