第104話 買取り

「オーナー……」


 サヨが気まずそうな顔でオーナーのことを見ている。


「まったく……アタイから逃げられると思ったのかい? あまり良い思考回路とは思えないねぇ」


 バカにした調子でオーナーはサヨに向かってそう言う。


「しかし……アタイの相棒二体をバラバラにしたのは、アンタかい?」


「……いや、私じゃない」


 サヨが否定するとオーナーは俺のことを見る。しかし、最初から俺がそれをやったなど考えていないようだった。


「……とにかく、アンタはアタイの商品なんだ。さっさと店に戻るよ」


「随分と偉くなったね、ゴミ漁りは下手くそだったくせに」


 と、そこで口を挟んできたのは、ムツミだった。


 それまでムツミのことを見ようとしていなかったオーナーは忌々しそう顔でムツミを見る。


「……アンタとは話したくないんだけどねぇ」


「ウチはアンタと話したいよ。ゴミ漁りが下手くそだったアンタが、どうやって光街でのし上がったのか、詳しく聞きたいし」


 ムツミは意地の悪い笑顔を浮かべている。なるほど……なんとなく知っている感じではあったが、どうやらオーナーとムツミは知り合いだったようである。


「……アンタに話すつもりはないよ。とにかく、サヨはアタイの商品なんだ。持って帰るよ」


「駄目だ。その子はそこにいるナオヤの相棒なんだと。アンタに持って帰る権利なんてない」


 ムツミの言葉に対して、オーナーはニヤリと微笑む。


「それじゃあ、サヨを買い取ってもらわないとねぇ」


 そう言われてムツミはムッとした顔をする。


「当然だろ? アタイだって人売りからサヨを買ったんだ。アンタにもそれ相応の金額で買い取ってもらう」


 ……そういえば、この街では金銭が流通しているのか。金銭というものがどういうものかは俺は本でしか読んだことがない。


「……どうせ、とんでもない値段をつけるんだろう? ウチにはそんな金はないよ」


「じゃあ、しょうがないねぇ。力づくでサヨは回収させてもらうよ」


 オーナーがそう言うと、二人の巨大な人造人間が迫ってくる。俺はサヨの前に立って、なんとかサヨを守ろうとする。


「ナオヤ、お前……」


「あははっ! 健気だねぇ、坊や。でも、そんな貧弱な身体じゃ、バラバラになっちゃうよ?」


 ……オーナーの言う通りだ。明らかに相手の人造人間の方がパワーも強い。おそらくまともにやりあったら破壊されてしまうだろう。


 それでも、俺は……。


「……サヨは俺の旅の相棒なんだ」


 俺が必死で口にした言葉をオーナーは鼻で嗤う。それと同時に巨大な人造人間が迫ってくる……ちょうどそのときだった。


「では、私が買取りましょう」


 聞こえてきた声に俺は思わずビクッと反応する。聞き覚えのある声……優しげだが、まるで生命体な響きを感じさせない声。


 声のした方を見ると……オーナーの連れてきた人造人間と同じくらいに巨大な、黒い人形がそこに立っていた。


「……クロト」


 その黒い人形……人造人間クロトは、俺が名前をつぶやくと、頭部に灯る青い光をより一層輝かせたのであった。

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終わった世界の深夜旅行 味噌わさび @NNMM

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