第100話 商品
踊り子のサヨは……音楽が流れるとともに踊りだした。
その踊りはとても妖艶で……あの無骨で戦闘が得意なサヨからは連想できないような動きだった。
しかし、それと同じ俺にはある疑問が思い浮かぶ。一体なぜ……サヨがこんな場所で踊っているんだ?
サヨはこちらに気付かずに、かなり露出度の高い格好で一心不乱に踊っている。俺はただ、呆然とその様子を見ていることしかできなかった。
そして、しばらくすると、踊りが一段落する。ポーズを決めて音楽も止んだ。
「さぁ! 当店自慢の踊り子のショーはいかがでしたでしょうか! 続けてさらに激しいダンスを――」
「サヨ!」
俺は思わず叫んでしまった。会場が一瞬にして静かになる。
ステージ上のサヨも……俺のことを見ていた。
「あ……アンタ……」
ムツミの信じられないという声が聞こえてきたが……俺は止まらなかった。そのままステージに向かって走り出す。
そして、そのままステージへ駆け上がる。サヨ以外の踊り子の人造人間が俺を怖がって避けていく。
「お、お前……」
サヨはまるで死人を見るかのような目で俺を見ている。俺はサヨの手をしっかりと掴む。
「行こう!」
「え……お、おい!」
俺はサヨの手を引いて走り出す。それから少し遅れて「逃がすな!」とか「捕まえろ!」という声が聞こえてくる。
「お、お前! 一体なんで……どうしてここにいるんだ!?」
店の廊下を走りながらサヨは俺に聞いてくる。
「こっちこそ、サヨがなんでそんな格好で踊っているのかを知りたいよ!」
「そ、それは……と、とにかく! 落ち着け!」
店の出口まで来た時、サヨは俺の手を振り払った。
「え……ど、どうしたの? サヨ」
「……無理だ。私は……行けない」
サヨは辛そうな顔でそう言う。
「そんな……なぜ?」
「そりゃあ、ソイツがアタイの買った商品だからだよ」
と、サヨの背後から声が聞こえてきた。見ると、廊下の奥から一人の女性型人造人間がこちらにやってくる。
大きく胸の部分が開いたドレス……きらびやかな装飾を施した服装のその人造人間は……見ただけで嫌な感じを受けた。
「困るねぇ、お客様。気に入ったからって、店の商品を勝手に持っていかれるのは」
「……サヨは商品じゃない。俺の旅の同伴者だ」
俺がそう言うと、女性型人造人間はチッと舌打ちをする。
「わけがわからないが、とにかく、ウチの店ではお持ち帰りはご法度だ。お客様には少し、頭を冷やしてもらおうか」
女性がパチンと指を鳴らすと……女性の背後から二身体の人造人間がやってくる。
俺の身長の二倍……その程度はありそうな大型の人造人間だった。
「ち、違うんだ! オーナー! コイツは――」
と、サヨが反論しようとすると、再度女性はパチンと指を鳴らす。それと同時にサヨはいきなりその場に倒れてしまった。
「サヨ……? サヨ!」
「まったく……商品が持ち主に口答えするなんてねぇ……サヨ、アンタはもういらない。お前達、その迷惑なお客様と一緒に処分しておきな」
そう言ってドレスの女性は俺に背を向ける。それと同時に大柄の人造人間二体が俺に向かって走ってくる。
そして、そのうちの一体の巨大な拳が俺に向かって振り下ろされる。
俺はその時、妙に落ち着いていたが……同時に理解していた。
これで、俺の旅は終わってしまうのだ、と。
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