第94話 情報屋

 それから、どんどんと俺とムツミは大通りから外れて、奥まった場所へと進んでいった。


 路地のような薄暗い場所を進んでいくのは、なんとなく、夜の世界を歩いてきた俺でも不安に思えてきてしまった。


「ここよ」


 そういって、ムツミは立ち止まる。そこには、小さな小屋のようなものが建っていた。


「え……ここは?」


「情報屋の家よ。まぁ……勝手にここに住んでいるヤツが自分を情報屋って名乗っているだけだけど」


 と、それだけいうと、ムツミは臆することなくそのままその小屋の中に入っていく。


「邪魔するわよ」


 中は、ゴミ屋敷ということばが似合うレベルで汚かった。俺は思わず顔を顰めてしまう。


「あぁ……? なんだ、ムツミじゃねぇか」


 と、小屋の奥からヨロヨロと一人の男性が歩いてくる。


 着ている服はムツミ以上にボロボロ、おまけに、彼は片腕がなく、そこから配線がむき出しになっていた。彼も人造人間のようである。しかも、かなり古いモデルのようだ。


 どうやらその彼こそが、情報屋のようであった。


「ちょっと……アンタ、また、違法オイルでも飲んでるわけ?」


「違法じゃねぇ。あれは、自家製オイルって言うんだよ」


 と、それから彼は俺の方を見る。


「なんだ、兄ちゃん、見かけない顔だな」


「え……あ、あぁ……どうも」


「迷子よ。ウチが拾ってきたの」


 迷子と紹介されるのもどうかと思ったが、かといって、俺はムツミにそれ以上の情報を開示していないのを今になって思い出した。


「迷子か……まぁ、珍しいもんでもないな。で、今日は何しにきたんだよ」


「迷子の彼が人を探してるの。えっと……どんな人なんだっけ?」


 と、ムツミが俺に話をフッてきたので、俺は慌てて説明に戻る。


「えっと……女性型の人造人間なんですけど……」


「はぁ? 兄ちゃんなぁ……そんなのこの街にはごまんといるんだよ。わかるわけないだろ?」


「あ……いや、確か、A型人造人間で……」


 と、情報屋の表情が変わった。そして、なぜか彼はわざとらしく肩を落とす。


 なんだ? 何か、サヨのことを知っているのか?


「……兄ちゃん、諦めな。そいつはもう会えなくなったと思ったほうがいいぜ」


「え? な、なんで?」


 俺が思わず聞き返してしまうと、情報屋は鋭い視線を俺に向けてくる。


「無論、危険だからだ。俺は兄ちゃんが探しているその人造人間がどこにいるか大体知っている。だが、兄ちゃん、もしそいつの居場所を知ったらどうするつもりだ?」


「え……そりゃあ、会いに行って……」


「だから、それが駄目なんだよ。もう簡単に会える相手じゃなくなっているんだよ。俺から言えるのはそれだけだ」


 そう言って、情報屋はムツミの方を見る。


「お前も、変な奴に構っている暇があったら、俺の貸した金、さっさと返してほしいんだがな」


「え……あ、あぁ~……ウチ、急用思い出した! ほら、行くよ!」


 と、いきなりムツミは俺の手を引いて、小屋から飛び出してしまった。


「え……ちょ、ちょっと……どうして飛び出したんだ? アイツ、何か知ってそうだったのに……」


 俺がそう言うとムツミも辛そうな表情で俺を見る。


「……えっと、ナオヤ、でいいいんだよね? その……やめておいたほうがいいよ。アイツがああ言っているってことは、本当に危険なんだろうし……」


「で、でも! 俺にはサヨが必要なんだ! 危険であっても会いに行なくなくちゃいけないんだよ!」


 俺がそう言うとムツミは少し悲しそうな顔をしたあとで、なぜか力なく微笑む。


「……とりあえず、ウチの店に戻ろう? 話はそれから考えようよ」


 俺は今すぐにでもサヨを探しに行きたかったが……ムツミの言う通りにした。


 ムツミのこの態度……おそらく、ムツミもわかっているのだ。情報屋が危険だと言った其の場所が一体どこを指し示すのかということを……。

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