第85話 諦め
それからどれくらい経っただろうか。
痛みは途中から感じなくなった。いや、厳密には激烈な痛みだった。
しかし、気づけば俺は……気絶してしまっていたのだ。人造人間が気絶というのはおかしな話ではあるが、とにかく意識がなくなっていたのだ。
意識が失くなった後も、時折、青い光が俺の前を揺らめくのを感じる。そして「素晴らしい」や「信じられない」といった驚嘆の声が聞こえてくる。
そして、青い光も見えなくなり、声も聞こえなくなった頃……俺は意識を取り戻した。
「……ど、どうなったんだ……」
声が枯れている。おそらく、激痛に耐えかねてずっと叫んでいたからだろう。
俺は周囲を見回す。見ると、まだクロトが近くにいた。そして、何やら計器をいじっている。
俺は自分の右腕を見る。しかし……既にその右腕は俺の見知っている右腕ではなかった。
腕だった部分は大きく開かれており、その部分に無理やり刃のようなものが接続されている。
もっとも、開いた腕の部分の中に見えたのは……血や肉ではなかった。よくわからないパーツやケーブルがいくつも絡み合っている。その光景を見て俺は、自分が人造人間だということを改めて理解した。
「おや、目覚めましたか」
と、俺がその腕を見ていると、クロトの声が聞こえてきた。
「……俺の腕……どうなってんだ……?」
「素晴らしいでしょう? アナタは痛覚も存在する。ですが、ご覧の通り確実に人造人間です。どうして、どのようにしてアナタのような存在が製造されたのか、まるで理解できません」
青白い光を輝かせながら、クロトは興奮気味にそう言う。俺は腕を動かしてみようとした。すると、先程まで真っ二つに開かれた状態だった腕が、あっという間に元に戻った。
「しかも、アナタの身体は、まるで中身を分析ができていない私であっても、簡単に改造できました。一体どういう存在なんです、アナタは?」
「……知らない。それより、もう気が済んだんだろう?」
「あぁ、すいません。方針が変わりました」
そう言ってクロトは俺の顔に青白く発光する頭部を近づけてくる。
「せっかくですから。他の部分も改造してみたくなってしまいました。大丈夫。半分くらい手つかずの状態にしておけば分析できますから」
「は……? あ、アンタ何言って……」
そう俺が言っている間にも、またしてもクロトの腕が変形し、回転する刃物がけたたましい音を立てて俺に近づいてくる。
もはや悲鳴も出なかった。俺はもうクロトの玩具でいることしかできない……諦めという感情を思い知った、その時だった。
ガシャン、と大きな音がした。見ると……なぜかクロトが床に倒れていた。頭部からの青白い光も出ていない……どうやらクロトが活動が停止したようである。
「え……な、なんで?」
「……大丈夫ですか。ナオヤ」
と、俺は声がしたほうを見る。
「え……クロミナ……? なんで……?」
俺が問いかけたように、クロトが倒れたその向こうには、バチバチと電気を発する棒のようなものを手にしたクロミナが、相変わらずの無表情で立っていたのだった。
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