第67話 ポスト
「……なぁ。確かに程なくして海にたどり着くって言ってたよな?」
サヨはうんざりした顔でそう言う。俺も同意だった。ヒフミ老人の家からそれなりに歩いているが、まだ海は見えない。
「まぁ……方向はあっているんじゃないかな?」
「はぁ……まぁ、構わないが……ん? あれ、なんだ?」
と、サヨが前方に何かを見つけたようだった。俺とクロミナも同様にそちらを見る。
前方には赤い小さな四角い物体がある。今まで見たことのないものであった。
「近づいてみる? 危険そう……には見えないけど」
俺がそういうと、サヨとクロミナも同意した。俺たちは赤い物体に近づいていった。
と、赤い物体は近づくに連れてそれが段々何であるかは俺にも理解できてきた。それは……。
「……ポスト?」
ポストだ。本で読んだことがある。これは、かつて人間が手紙や贈り物をこの赤い箱の中に入れて、遠く離れた人に届けるものであったはずだ。
そういえば、以前に手紙を届けていた人造人間と会ったが、まさか、ポストにも出会えるとは思わなかった。
「へぇ……まだ残ってたんだなぁ」
サヨもポストは知っているようだった。クロミナだけが、物珍しそうにポストを眺めている。
「裏が開いていますね」
と、クロミナがそれに気付いたようだった。俺たちも確認する。確かにポストのおそらく取り出し口と思われる後ろの部分が開いて中が丸見えになっている。
「……手紙が多いな」
サヨが中に手を突っ込み、手紙の中の一枚を取り出す。
「なんで書いてあるの?」
「……自分で読んでみろ」
サヨはそう言って手紙を手渡してきた。俺も手紙に目をやる。かなり紙質が古びてしまっている。
手紙の内容は……無事でいるか、大丈夫か、といったものだった。おそらく、夜が続く世界になってから……世界が終わりかかっている時に書かれたものなのだろう。
他の手紙を見ても、どれも同じような内容だった。どの手紙も、相手の安否を心配する内容だった。
だが、この手紙はもう……心配する相手には届かない。
「……行くぞ。見ていても仕方ないだろ」
サヨはもう興味を失ってしまったようで歩きだしてしまった。と、クロミナが先程から一枚の手紙をじっと見つめている。
「クロミナ? 何か気になることが書いてあった?」
「愛しています、とは、どういうことですか?」
いきなりクロミナにそう言われ俺は驚いてしまった。と、手紙を見せられてそれが、手紙に書かれた文字であることを理解する。
「あぁ……好きだって、ことかな?」
「好き? 好きとは、どういう意味ですか?」
「え? あー……大事に思っているってことかな?」
「では、ナオヤは、私のことを好きですか?」
そう聞かれて俺は思わず面食らってしまう。いや、俺自身も好きって言葉の意味をよく理解できていないような気がするし……
「え……あ、そ、それは……」
「では、サヨのことは、ナオヤは好きですか?」
「えぇ!? いや、それは……」
「おい! 早く来い!」
と、俺が困っている時に、サヨが俺を呼んでくれた。
「あ……サヨが呼んでるよ。もう行こう」
俺は半ば強引にクロミナの手をとって走る。
でも……好きってどういうことなんだろう?
そして、どうして俺は人間だというのに、その言葉の意味を理解できていないだろうか。
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