第34話 狩場

「……おや、ここで道路が途切れているみたいだ」


 俺とサヨが歩いていると、いきなり道路が途切れていた。正確には道路の前方に建物があって、その内部を通って道路が続いているようである。


「どうする? 迂回するか?」


 サヨはそういうが、せっかくここまで道路に沿って歩いてきた。なんとなくここで道を外してしまうのももったいない気がする。


「いや、このまま道路に沿って進もう」


 俺がそう言うとサヨも同意してくれた。俺達はそのまま建物の方に向かっていく。


 建物内部を通って出た先には、道路を取り囲むように、高い建物がそびえ立っていた。建物の様子を見るとどうやらそこはかつて人類が多数住んでいた集合住宅のようである。


「……静かだね」


「まぁ、もう誰も住んでいないだろうからな」


 俺もサヨもそう言いながら周囲の建物を見回している。


「……ちょっと待て」


 と、いきなりサヨが俺が歩くのを制止する。


「え? 何? どうし――」


 次の瞬間、俺はサヨにそのまま手を思いっきり引っ張られていた。そして、俺はそのまま建物の物陰に引き込まれる。


「さ、サヨ……何して……」


「動くな……聞こえたか?」


 サヨはそう言って辺りを見回している。


「え……何が?」


「……銃声だ」


 銃声? 全く聞こえなかった。しかし、サヨには聞こえたようである。すると、サヨは辺りに転がっていた石ころを手に取り、そして、それを物陰から投げた。


 その瞬間、物陰から投げた石ころは木っ端微塵に粉々になった。そして、少し遅れて微かに甲高い銃声が聞こえてきた。


「……狙撃手か」


 サヨは苦々しい顔をしながら俺の方を見る。


「狙撃手って……え? 誰かが俺達を狙っているってこと?」


「そうなるな……まったく、とっくに戦争は終わっているっていうのに……」


「え……どうするの? 来た道を戻る?」


「いや、さっきの石ころ見ただろ? あれは警告だ。狙撃手は私達の居場所を完璧に把握して正確に撃ってきている。おそらく人造人間……しかも、私に近いタイプだろう」


「そんな……でも、ずっとここに隠れていたらそのうち諦めるんじゃ……」


「……狙撃手は何時間でも、何日でも、何年でもそこで待てる。しかも、相手が人造人間なら尚更だ。ヤツは私達がここから出るのを狙っている。そして、出た瞬間に二人共確実に機能停止させる気だろうな」


 俺はそれ以上言えなかった。そして、ひどく後悔していた。あの時、俺が道路を迂回するかというサヨの提案に従っていれば……こんなことにはならなかった。


「……そして、実際にヤツはそれで何人も仕留めているようだ」


「え? どういうこと?」


「お前、ここからあそこらへんを見てみろ」


 と、サヨが指差す方向を俺も見てみる。


「ひっ!」


 思わず俺は小さく悲鳴を上げてしまう。サヨの指差した方向には……頭や腕、足なんかが散らばっていた。もちろん、それは機械的なもので、それが人造人間の残骸だということは理解できた。


「どうやら、私達は……ヤツの『狩場』に入ってしまったようだ」


 サヨの深刻そうな顔が、如何に俺達が今、絶望的な状況にいるのかを理解させてくれたのだった。

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