第23話 相違

「なるほど。旅、か」


 暗い工場の中を、俺とサヨは、そのサヨと顔のそっくりの人物の後に付き従いながら歩いていた。


 サヨは先程からどこか落ち着きがない。俺もなんとなくだが、ソワソワしていた。


「それで、姉妹はどうして、こんな工場にやってきたんだ?」


 と、先程から話していた女性がこちらに振り向いてそう訊ねる。サヨは少しためらったが、話し始める。


「……左腕が……壊れた」


 そう言って、サヨは外れてしまった左腕を、自分と瓜二つの顔の女性に見せる。


「あぁ。そうか。どれ、見せてみろ」


「え……直せるのか?」


「見てみないとわからないが、大方、何かの衝撃でパーツが外れたんだろう? ここには幸い姉妹達のパーツが余っているからそれで代替できるはずだ」


 信じられないことにどうやら、この目の前の女性はサヨの故障を直せるというのだ。


「……お前は、どういう者なんだ?」


 俺が聞くよりも先に、サヨがそう聞いた。女性は目を丸くしてサヨを見ている。


「どういう者、って、お前と同じ姉妹だよ。型番のことを言っているのか。私は0027だ。お前は?」


 型番……俺がサヨと初めて会った時に言っていたあの番号か。


「……私は、サヨだ」


 と、サヨは少し恥ずかしそうにそう言った。それを聞いて0027は今一度目を丸くする。


「名前? お前、自分で付けたのか?」


「違う……ソイツに勝手にそう呼ばれているだけだ」


 そう言ってサヨは俺を指差す。今度は0027は俺の方を見る。


「へぇ。で、お前の名前は?」


「え? 俺はナオヤ、だけど……」


「そうか。では、お前たちに倣って、私も今から0027ではなく……ニナと名乗ろう」


 そう言ってニナは少し嬉しそうに微笑む。同じ人造人間なのに、サヨとは違う反応だった。


「さて、サヨ。今からお前の治療をするから、二人でこっちについて来い」


 そう言ってニナはさらに工場の奥に進んでいく。


「……アイツ、なんだか違う」


「え? 何が?」


 サヨが疑わしげな視線をニナの背中に向けている。


「同じ姉妹には思えない……私と一緒にいた姉妹たちの中にはあんなヤツはいなかった」


「……そう? でも、同じ顔で同じ容姿でも……違う個体なんだから、違う性格だったりするんじゃない?」


「それは……人間の話だろう。私達人造人間がそうであっていいはずがないだろう」


「人間が良くて、人造人間は駄目なの?」


 俺がそう言うと、サヨは黙ってしまった。


「おーい! 治療しなくていいのか?」


 ニナの声が聞こえる。


「……とにかく、治療ができるっていうんだから、今はその言葉を信じるしかないんじゃない?」


 俺がそう言うとあまり納得できていないようだったが、サヨもニナの方にあるき出したのだった。

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