第11話 湖
「……あれって、池かな?」
道路を歩いていると、何やらキラキラと反射している場所がある。
もしかすると、それは水面なんじゃないかと俺は思った。
「そうかもな……行ってみたいのか?」
すでに俺が次にどうしようとしているのかわかってきたらしいサヨは最初からそう訊いてきた。俺とししても、もちろん、行きたいのである。
「……いい?」
「あぁ。もう止めたりしない。お前の旅行だからな」
許可をもらったので、俺はそのまま池に近づいていった。サヨも俺の少しあとを付いてくる。
「……広い池だな」
近づいてみるとそれがかなり広い池だということが分かった。向こう岸までは泳いで行くのは流石に難しそうである。まぁ、そもそも俺は泳げないのだが。
「これは、池というか、湖だろう」
「湖……海じゃないの?」
「はぁ? お前……海はもっと広いだろう?」
「いや、見たことないから……サヨは見たことあるの?」
「え……いや、私も実際に見たことは……ない。ただ! 海はもっと広いと聞いたことがある。それこそ、向こう岸なんて見えないそうだ」
「へぇ。そうなんだ」
「あぁ。兄ちゃん、ここは海じゃねぇぞ」
いきなりどこからか声が聞こえてきて、俺もサヨは驚いてしまった。
「お前ら……どっから来た?」
と、周りを見回すと、俺達の近くに、一人の男性が座り込んでいる。
男性はかなり老年で、なぜか、湖に向けて棒状のものとを垂らしていた。
「え……えっと……かなりあっちの方、かな?」
そう言って俺はやってきた方向を指差す。
「あぁ……そっちは川も海もねぇからな。ワシが若い頃はもっとたくさんあったが……川も湖も干からびちまった……残っているのはここだけくらいだ」
老人はそう言いながらじっと水面を見つめている。
「えっと……おじいさんは?」
「ワシはイシイって呼ばれてた……随分昔の話だがな」
「あ……イシイさんは、今何しているんですか?」
イシイは俺の質問に驚いたようで目を丸くしている。
「お前……釣りも知らねぇのか」
「え……知りません」
「姉ちゃんは?」
サヨも少し恥ずかしそうに首を横に振った。
「……まぁ、釣りなんてしている奴も、この世界にはワシだけかもしれんしなぁ……兄ちゃん。あそこに釣り竿があるから、持ってきな」
イシイは少し離れたところに置いてある小さな木箱を指差す。
「え……どうするんですか?」
「教えてやるよ。釣りっていうのはどういうものなのかをな」
そう言って、イシイはニヤリと微笑んだのだった。
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