第6話 日常になる非日常

 明くる朝。朝起きて、1階に降りると昨日のように真澄がそこにいた。

昨日の様子から想像はついていたから、特に驚きはない。


「おはよーさん。コウ」

「うん。おはよう」


 そんな挨拶を交わして席に付く。


「ご飯、もうすぐで出来るから。待っといてな」

「うん。それにしても……」


 料理をしている真澄をまじまじと横から眺める。

 セミロングのスカートに紺と白をメインにしたセーラー服。それに白いエプロンかけた様は何とも似合っている。


「……どうかした?」


 見つめているのに気が付いたのか、真澄が僕の方を見る。


「いや、なんていうか可愛くてよく似合ってるなって」


 なんとなく思った感想を率直に言ってみた。


「か、かわ!?」


 途端に目に見えて動揺しだした。

 そんな様子もちょっと可愛いけど、料理中に危ない。


「料理中に危ないよ」

「コウのせいだっちゅーの!」


 なんだか僕のせいにされてしまった。


 気を取り直して料理を再開したのか、じきに朝食が運ばれて来た。今日は、昨日と違って、ご飯、玉子焼き、味噌汁、焼き魚と典型的な和食だ。


「昨日と違うね?そこまで手間かけなくても大丈夫だよ」


 真澄がしたくてしているのはわかっているのだけど。


「うちがしたくてしているんやから、大丈夫。それより、味は?」

「いや、まだこれからだから。もぐもぐ……」

「……」


 僕が食べている様子を固唾を飲んで見つめている。


「うん、美味い。さすが」

「そか。良かったわー」


 昨日もそうだったけど、料理が出来るのは見てわかるし、ちょっとオーバーな気がする。


「そりゃ、普通に美味しいし。それに、僕の好みもよく考えてくれてるよね」

「わかるん?」

「卵焼きの味付けとか。僕が甘めのがあんまり好きじゃないの、覚えてくれてたんでしょ?」

「!」


 昨日の卵焼きもそうだったけど、図星だったらしい。


「なんかずるいわー。せっかく気づかれない程度に工夫したのに」


 恨めしそうな顔で睨んでくる。何がずるいんだ。


「それだけ、僕のこと考えてくれてるんだってわかったよ。ありがとう」

「ううー」


 なんだか猛獣のようなうなり声を上げているけど、大丈夫だろうか。

 頬や耳もなんだか赤みがかっている。


「こんなのコウやない!」

「僕の存在が否定された……」


 ちょっとおおげさに落ち込んで見せる。


「いや、そういうんやなくてな。いつもとちょっと違うっていうか……」


 しどろもどろになっている。普段と立場が逆転していて、ちょっと楽しい。

 昨日の話を聞いたせいか、凄く健気で可愛らしく思えてくる。

 

「冗談だよ、冗談」

「コウのイケず」


 ふてくされる真澄。


「でも、からかわれる方の気持ちがわかったでしょ?」

「おおいに…」


 何か、ぶつぶつと文句を言っているけど、聞かなかったことにしよう。

 朝食を食べ終えて、登校のために部屋に戻る。

 そういえば、昨日、弁当はいつ仕込んだのだろう。

 

 鞄をとってもどって、ソファーの少し離れたところに置いて、真澄の行動を観察する。まるで、動物の行動を観察しているみたいだが、気にしない。


 テレビを見るふりをして、横目で見ていると、すーっと近づいて来て、鞄の中に弁当箱を入れようとするのが見えた。見切った!


「はい。アウト」


 弁当箱を持った手を掴む。


「いや、アウトってなんやねん!」


 切れられてしまった。


「だって、ひっそりと弁当を忍び込ませようとするから。堂々と渡してくれればいいのに」


 なにも、こんな回りくどいことをしなくても。


「ウチなりのサプライズやったんやけどな。今度からは普通に渡すから、かんにんして」

「よろしい」


 真澄を上から目線でいじれるのはちょっと楽しい。


「ウチがコウをいじるのはよくても、コウがウチをいじるんは違う……」


 なんだかいじけている真澄がちょっと面白い。


 昨日のように、自転車をお互い取り出して、二人で登校する。


「それで、今朝はどうしたん?」


 自転車をゆっくり漕ぎながら、真澄が問いかける。


「どうしたって……」


 言ってしまえば、真澄が寂しいと思ってくれてたこととか、学校内での出来事を聞いたとか、色々あるけど。


「だって、こっちの方が楽しいでしょ?」


 もちろん、一度意識してしまった気持ちが変わることはないけど。こういう風にふざけあっている方が僕たちらしい。そう思ったのだった。


「ウチの方がいじられるのは不服やけど、それなら、まあ」


 僕の言葉に何か感じるものがあったのか。

 なんだか毒気を抜かれたような表情だった。


「じゃあ、今度はそっちからの反撃、待ってるから」


 ちょっとからかってみる。


「余裕ぶってるのがムカつくんやけど」


 そう言いながらも、真澄はとても楽しそうで。

 こんな風な毎日なら、恋人とかそんなことは置いておいて、悪くないな。

 そう思ったのだった。

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