掌握が先、戦略は後

「掌握が先、戦略は後」


丸のみすると決めてから

達社長は、何度もこの言葉を

自身に語りかけている。


この気持ちで

最初に取り組んだのが

幹部社員一人一人との面談である。


ルールや仕組みは人がつくる。

だからこそ人と向き合おう。


そう考えたからだ。


流行りの表現を使うなら

「one on oneミーティング」


ところで、現在達社長の会社の

幹部とは一部例外もあるが、

課長以上。


役員まで含めると

全部で15名はいる。


数名を除いて皆、年長者。


しかも、メガバンクからきた

総務課長を除けば、10年以上

当社で働くベテラン社員。


「気を遣うな」


人と話すのは嫌いではないが

ストレートに思ったことをいう

達社長。


年長者の誇りやプライドを

傷つけてはいけないと

珍しく神経質になっていた。


そんな気遣いをしながら

およそ一週間かけて行われた

個別の面談。


ある意味、順調にと言うか

大禍なく過ぎていき、


残すところあと二名。


その二名とは、

実務を取り仕切る建築部長と

父の代からお世話になる

ベテラン専務である。


達社長にとっては

本来、真っ先に面談をしたい

二人だったが、

彼らの多忙が理由で、

最後になってしまった。


約束の時間から

10分遅れでやってきた建築部長


「すみません。

現場が中々片付かなくて」


そう頭を下げるが、

明らかに面倒そうな表情で

こちらを視ている。


「会社の良いところや

課題を教えて欲しい」


達社長

気にせずそう切り出した。


すると、建築部長

「それは聞くこと

じゃなく観ることでは」

と素っ気なく答えた。


寡黙で口下手とは聞いていたが

最初から「ケンカごし」な態度

には少し驚かされた。


その後も噛み合わない感じで

面談は終了となってしまった。


最後の一人、ベテラン専務。


現場の叩き上げで、

父を支えてくれた恩人だが、

建築部長に輪をかけて口は悪い。


利益が低迷する現状や

若手が定着しない現場

となり街の

ライバル建設会社の攻勢


これでもかと言う程、

問題点を指摘してくれた。


最後にキーマンである、

建築部長についても聞いて見た。

「なぜあんなに敵対的なのか」


「素直に話しても良いですか」

専務ははっきりした口調で

達社長の目を見つめた。


「はい」と達社長


専務「あなたの社長就任

それは会長の息子だから」


「落下傘で降りてきた人に

現場なんてわかるのか?」


そう考えているからだと。


そして、

少なからず、それが現場の

達社長をみる目だと言われた。


ショックだった。


確かに会長の息子ゆえの社長就任。


しかし正直、順風満帆の会社ではなく

どちらかと言えば、助けにきた位の

つもりでいたからだ。


「社長の考えと社員の気持ちは違う」


「だから、掌握とは人心なり」

先輩社長のアドバイスが身にしみた。




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