第82話 終わり良ければ全て良し
大変な目にあいました。
プレイヤーやMOBはなんとかなってもやはり自然は強敵ですね。
あれから私達は何事もなかったように目的の素材を集めに森林、山岳フィールドをあちこち回りました。
実際被害にあったと思われるカザネは素材集めに関係ないサブ種族の使用不可と回復アイテムの取り出し不可という結果に見舞われましたけど、私が居るので実質HPやMP、空腹値、スタミナなど問題ありませんでしたからね。
そこから先はカザネのフィールドワーク。あれもこれもと欲張ってアイテムバッグをパンパンにしてすぐに泣きついてきたカザネを温かく見守ったり、休憩と称して今日中に食べきってしまいたい食材の消費に勤しみました。
この時私は完全に油断しきっていました。草原はともかくとして、森林、山岳を歩くにしてもココットが過剰戦力過ぎたのです。ですので危険はないと思い込んでいたのですね。
その油断から私は第一歩を踏み出し、ブロック単位での地崩れに巻き込まれ……
「ユミさん、そこから先は足場危ないよ」
「えっ? 」
ガラッ(足元の岩盤ごと崩落する音)
「 ……きゃああああああああああああああああ!」
「ねえさーーーーーーーーーーん!」
「ユミさーーーーーーーーーーん!」
見事にハモった二人の絶叫を最後に聞いて光の粒子に変換されました。
まさに足元注意というわけです。
特に落下ダメージはアイテムバッグの重量も加味されますからね。
ただでさえ圧縮保存であれこれ詰め込んでいた私にとってそれはとても致命的で、ちょっと多めなHPでも即死でした。
人間とっさのことに判断が出来ないものですね。ブロック単位で崩落に巻き込まれたと思ったらすごい早さで落下していくんですもの。
何か策を講じる前に、私の頭と地面がごっつんこしてしまいました。
まぁそんな経緯を経て一人教会で目覚めた私は、30分間教会に拘束されるペナルティを果たしてパーティーメンバーの二人と酒場で合流します。
とは言えその間ずっと暇してたのでずっとパーティチャットでお二人と会話してました。
二人は街に帰って先に酒場で席とりと素材分配に関して話を詰めておくとの事です。
その上で私の取り分もあるのだとか。
今日はみんなに心配しかかけてませんからね。ちょっと受け取りにくいというか、いいえ……分配は彼女達に任せましょうか。
今の私は新素材を仕入れてホクホクですから。
待ち合わせを酒場にしたのも後で料理クランに不要素材を引き取ってもらうのも兼ねてです。今度の素材も大きい分ゴミがいっぱい出そうなんですよね。
アレコレと考え事をしているうちに酒場に到着しました。目線を滑らせて二人を探しますとすぐに発見!
いや、目立ちますよ。
みんなお酒飲んで盛り上がってる最中、二人とも紙の束にまみれて睨めっこしてましたから。それだけで周りから注目を集めてましたけど、特にお咎めはなかったのは有名人だからでしょうか?
そそくさと駆け寄って声をかけます。
「おまたせ~」
「姉さんお帰り」
「ユミさんおかえりー」
「はい、ただいま」
一言断ってから着席。ウェイターさんを呼び寄せて注文します。
二人ともお腹は空いてないようですね。各々ドリンクを頼んで作業を続行してました。
そりゃあれだけ間食を挟めば空腹値は問題ありませんか。昼食を取った後に休憩を3回も挟んでますからね。その度に作り置きの料理を消費してもらいつつ、新素材のお肉料理の味見もしてもらいましたし。
そのおかげかいつもより効率よく素材集めができたとカザネは喜んでいましたね。どういうわけかココットも少し嬉しそうでした。
これが本来の親友……友情関係なのでしょうね。
私と茉莉……いえ、ローズではこうはいきません。あれはなんといい表せばいいのでしょうか?
そうですね「お互いを利用し合っている」がしっくり来ます。
手腕は信用してますから、頼みやすいんですよね。
彼女もまた同じでしょう。
毎回甘ったれた事ばかりお願いして来ますから。少しは手加減しろって釘をさしてますが一向に治す気配はありません。トラブルメーカーとは彼女みたいな人を指して使うのですよね。
納得です。
ウェイターさんからドリンクを受け取り、一口含みながら二人が書き込んでいる紙に目を落とします。どうやらドロップ素材の名称、品質、レアリティ別に細分化して価格を書き込んでいるようですね。
驚きました。もう売り買いする気満々なんですね。
割と序盤の素材に5桁の価値があるとは思えませんが、それらは使う人やお金を出す人が決めることです。
使用頻度によっては序盤素材でも大いに価値がつくのでしょうね。
今の先行フィールドは東の1層目と西の3、4層目が注目されて人も多い傾向です。その手の情報は酒場で拾えますからね。お酒が入ると気が大きくなるのか、よく自慢しているプレイヤーが多いのです。そういう意味では情報集めは酒場に限るという事です。
その為か上層プレイヤーは南から引き上げてしまい、第三陣が我が物顔で闊歩しています。私とローズさんの世代ですね。
とは言え素材集めのプロと初心者では扱いや管理のプロセスがまるで異なります。命からがら手に入れても管理が悪ければ二足三文の価値しかありません。
生産職が欲しいのはレアリティは元より高品質。低品質ほど無価値なものはありません。
そういう意味では欲しい素材が不足気味になりがちなのでしょう。
需要と供給が必ずとも一致するとは限りませんからね。
カザネはこう見えて調薬に関してはプロ中のプロ。リアルでも医者の卵として活躍中の彼女は大手クランのマスターでもあります。
その彼女が手ずから欲しい素材を集めに来るというのは相当珍しい事らしいですよ。
素材の回収は自分でやるとしても、露払いを誰に頼むかで揉めていたみたい。
そこである程度気心の知れているココットにオファーがかかり、手の空いている日、つまり本日実行に移すことになったそうです。私はそれに乗っかっただけなんですよね。
リアルでは多少気心は知れていますけど、こうやってゲームの中で一緒に遊ぶのは初めて。少し奮発しすぎてドン引かれないか心配でしたが杞憂でした。
二人とも私の評価を高めてくれましたし、近いうちにまたお声かけしてくれる事でしょう。
「締めて120M、お納めください」
カザネが素材一覧表を提示して、金額を算出。それをココットに見せて、その分のファイトマネーを提供しているのだとか。二人ともいつになく真剣な顔つき。
そこでココットがギシリと背もたれに体重を預けて気怠げにカザネを見下ろし……
「少しピンハネしたでしょ?」
「な、ななな何のことかな?」
明らかに動揺するカザネ。
これは擁護しようがありませんね。
この子の中身、ローズとおんなじじゃないですか。
ココットの気持ちがよくわかります。
そうですよね。ここからここまでとある程度決めてやる気を出した後に追加発注を平気でして来る人は信用なりませんよね。
カザネの言い訳を聞きますと、予定以上に消耗品が出たのでそれの補填に当てたいのでこれ以上は無理。
実際相場は値崩れの傾向にあるが、高品質での買取は買い手の言い値が基本。
あらかじめ指定していたファイトマネーの100Mは支払っている。
そこに20Mも色をつけたのだから勘弁して欲しいとのこと。
それを聞いたココットは明らかに不機嫌になりました。
私もちょっと、カザネに対する評価を下げたい気持ちでいっぱいです。
「カザネちゃん、それは流石に自分に都合が良すぎるんじゃない?」
「うぐっ、ユミさんまで……」
「やーい、姉さんにも怒られてやんのー」
「むー……」
そこで公平性を得る為に、一度素材買取屋で相場に基づいた価格を再チェックしてもらうことに。
そこで算出された数字は40M。
何とカザネは20Mも値切っていたのです。
20Mと言ったら2000万ですよ?
流石大手クランのマスターは値切り幅もスケールが違いますね。呆れて物も言えません。
ジト目になりつつある私たちの視線を一身に受け、カザネは涙目になりながら土下座していました。こうなってみると少し可哀想に見えてきますね。いえ、自業自得なんですけど。
ココット的には支払いをピンハネされたという結末が気に食わなかったらしいですね。お金の金額じゃないのは少し意外でした。
せめて手持ちが足りないから支払いは後日、と言ってくれたらそこまで怒らなかったようです。
そりゃそうですよね。頼み込んできた友達が値切る前提で相談して来るとか私だって嫌ですよ。それは果たして友情なのか打算なのか、友達ってなんでしたっけ?
さっきまで流していた涙は何処へやら、カザネは私に向き直ると、行方不明になっていた20Mを差し向けてきました。
「はい、ユミさんの今日の取り分」
「え、こんなにいただけませんよ?」
「なによー、初めから姉さんに渡す気だったんなら最初にそう言ってくれればいいのに」
「えー、ココは言っても言わなくても怒るじゃん」
「怒るよ?」
「理不尽!」
ポコンと音を立ててカザネの頭部にぷくーっとタンコブの花が咲く。
それはジンジンと真っ赤な熱を帯びてチューリップの形になりました。
あら可愛い。
……それはそれとして。
「えーと、使途不明金を受け取るわけには……」
「いやいや、なに言ってるんですか。ユミさんが居なかったらST不足とEN不足でここまで素材回収出来なかったですって」
「そうなんですか?」
「そうね。そういう意味でも姉さんが居るってだけで相当コストパフォーマンスが向上したかも。このゲームのハーフリングは割と優秀だけど、その分燃費が悪くてね、すぐに行動不能に陥るの。そのくせ頭でっかちでのめり込むタイプが多いでしょ? これがハーフリングが冒険に向いていない理由。あたしが居てもカザネがここまで持つ事はなかったかも」
「ですが家庭料理にこれは戴き過ぎな気がしますが……」
「正当な報酬だよ。ユミさんが居なかったら正直今回の1/5しか素材の入手できてないと思っていいから」
「え、そんなに?」
「そんなにです」
「そういう事。姉さん受け取っちゃって。カザネの手元にあっても碌なことに使われないんだから」
「そうそう……ってオイ!」
仕方なく預かる事に。
しかしおかしいですね。20Mと言えば結構な額の筈なのですが、私の預金残高が60%から70%にしか膨らみませんでした。あれ? ちょっと待ってくださいよ、それだと計算が……
2000万で1割って相当……限度額が2億ってことですか?
これは減らないわけです。
しかし30%も減ったあの食器関連はどれだけ金食い虫だったのでしょうか?
ちょっと想像したくありませんね。
軽く冷や汗を流しながら二人とはそのまま別れて酒場に食材を卸しに行きます。
厨房の全員が目をギラつかせて食いついてきたのは驚きました。
どうやらホーク系の加工肉はいずれ取りに行く予定だったとかで、その現物が目の前にあるという興奮で目が血走ってしまったようです。
恐るべきは食材に対する執念でしょうか。ゲンさんは主に食材調達にかかりきりであまり厨房には居ないとのこと。
何としてもチャージシープ肉を手に入れてやるんだと意気込んでいるようですね。私からは応援しか出来ませんが、塩コショウだけでも倒せたんですから。漬けダレを覚えた今のゲンさんには余裕ですね。あとは圧縮保存とアイテムバッグの重量に気をつければ近い将来安定して入手できる事でしょう。
そこで食材を卸す前に自作料理を出してみまして感想を聞きます。
概ね私たちの評価と同じようです。
しかし本職はそこからさらにアイディアを捻り出して一品作ってくれました。
目から鱗とはこの事。煮詰まっていた思考に驚きの一手で私の悩みを打ち砕いてくれました。
それがまた美味しくてレシピを頂いて自分でも作ってみようとしたところで問題が発生。
私の手持ちの機材ではこれ作るの無理じゃないですか。
今までは焼く、茹でるで済んでいたところ、今回のレシピで浮上してきた『蒸す』これが曲者でした。
その場は機材をお借りして納得がいくまで調理、みなさんからお墨付きを貰います。
後日買い足す機材をメモ書きしまして厨房のみなさんと別れてログアウトしました。
ああ、欲しいものがどんどんと増えていく。
本日LVアップした割り振り分をアイテムバッグの容量を司る体力に優先させるか、圧縮保存の効率的に知力を優先させるか、非常に悩ましいところです。
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