338ページ目…災難

「う、う~ん…アレ?ここは?」


 目が覚めた僕は、自分のいる場所が分からずキョロキョロと周囲を見渡す。

 見渡す限り、どこもかしこも石ばかり…石の壁に石の柱…ご丁寧に、窓から何まで全てが石で出来ている、道理で背中が痛い訳だ。

 そう…何故なら、僕は石のベッドに寝かされていたのだ。


 僕は改めて周囲を確認する…そして、気を失う前の自分のしでかした事を再確認した。


 僕の中でのあの魔法は、生き物のみを石化する魔法だと思っていた。

 だが、いざ使ってみると、生き物だけではなく他の素材すらも石化すると言う事態を引き起こした。

 まぁ、結果だけ見れば、魔神教団は、全員、石化しているので捕縛の手間が省けた訳だ。

 本来なら、個別に捕縛するのが好ましいが、引き渡す相手も居ない上に、監視する人もいない。

 威力は、想像よりも強かった…いや、強過ぎた訳だが結果オーライと言う事にして置こう。


「それはそれとして…みんなは何処だ?」


 僕はそう呟くと、部屋の外へと出て行ったのだった。


★☆★☆★


「あ、あなた~ッ!」

「ぬべらッ!?…ゴフッ…。」


 部屋を出て直ぐの事…部屋から通路に出た瞬間、僕の腹部に弾丸の様に速い速度で飛んできた塊があった。

 否、それは塊ではなく、飛び込んで来た人…もとい、狼がいた。

 そう、いわずもがな…嫁~ズが一人、神獣のフェンリルでもある、ローラである。


 そして、寝起き(正確には気絶からの復活だが)の僕は周囲の警戒をしていなかった…。

 その結果、どうなったかと言うと…。


「だから、あれほどご主人様に勢いよく飛び込むのは辞めなさいといつも言ってるでしょ!

 ご主人様だって、いつも完璧に貴方を受け止めれるとは限らないんですからねッ!

 聞いてるのッ!ローラッ!!」


 僕はクズハに抱き抱えられながら、最上級の回復魔法で治療されていた。

 …つまり、アレか…僕は死に掛けたのか?

「うぅ…クズハ、ゴメン…。」

「ゴメンですって?それは何に対しての謝罪なんですか?

 そもそも、貴方の所為で死に掛けたのは、私ではなくご主人様ですよ?

 いえ、それ以前に、私が側にいなければ死んでいたかも知れません。

 ご主人様にとって私達なら代わりが利くかも知れません…ですが、ご主人様の代わりなど居ないんですよ?

 もし、そうなったら、どう責任を取るつもりなんですかッ!」


 と、いつもの『どもり』さえ無くすほどの剣幕でローラを叱りつけている。

 いや、叱りつけていると言うより、怒っているだけか?

 まぁ、プリンがいたら〖胃袋〗からエリクサーでも取り出して飲ませるか〖融合〗して、強制的に傷を治した可能性御あるが…。

 何にしろ、クズハが居たお陰で、僕は一命を取り止めた事になる…。

 ただし…クズハの言った事に一つだけ間違いがある…それは…。


「クズハ…君に僕の代わりがない様に、僕にとって君達の代わりなんて居ないよ。

 だから、そんな悲しい事は言わないで…。

 それに、ローラだって、わざとした訳じゃないんだから…もう、許してあげてよ…ね?」


 僕はそう言うと、ニッコリと微笑んだ…たぶん、ちゃんと笑えたと思う…。


ご、ご主人様あ、あなた、気が付かれたんですねッ!良かった…。」


 ボロボロと大粒の涙を零すクズハ…。

 その横では尻尾まで地面に付けて『クーン』と鳴き、伏せの状態で反省しているローラの姿があった。

 たぶん、土下座…土下寝?の、つもりなのかも知れない。


「ローラも、これからはあまり勢いよく飛びついちゃダメだからね?

 今回の様に、僕だって対処できない事だってあるんだから…ね?」

あなた…本当にゴメンなさい…。」

「うん、僕は赦すよ、だからクズハもローラを許してあげてね?」

「は、はい…ご主人様あなたがお許しになるなら私が許さない訳にはいきませんから。

 でも、ローラさん…くれぐれも二度とこの様なことが無い様にしてくださいね?」


「ぜ、ぜんしょする…。」

「も、もうッ!ローラさんったら…。」


 ローラ、そこは普通『はい』だぞ?

 何はともあれ、クズハのお陰で何事もなくて良かった…。

 そこで、ふと疑問に思った事がある。


「そう言えば、ローラ…どうして僕に飛びついてきたんだ?」

「ローラ、お腹空いた…。

 食料、あなた無限庫インベントリの中…あなた、起きた。

 だから、あなたに材料出して貰おうと思った…。」


 え、えっと…それは、つまり…。

 僕は、クズハの顔を見る。


「え、えぇ…この村をご主人様が石化させた時に周囲から生き物が逃げてしまって…食料が何もなかったんです。

 いえ、正確に言うなら水すらもありません。

 ま、まぁ、水は魔法ではどうにかなったんですが肝心の食料が、その石になっていまして…。」

「でも、プリンも胃袋にある程度の食材を用意していなかったか?」


 僕は疑問に思った事を口に出す。


「はい、ですが…予定外の消費がありましたので、その都度、プリンさんに出して貰っていた為、気が付いたら僅かばかりしか残っていなかったのです…。

 その食料を、ローラさんだけに上げる訳にはいかず、ご主人様あなたが目覚めるのを待っていたんですが…。」

「僕が起きて来たのが嬉しくて、飛び込んできた…と。」

「は、はい…。」

「「(は、)はぁ~。」」


 僕とクズハが、大きな溜息を付く。

 考えてみたら、確かにレスターさん達を保護しながら進んでいた為、休憩事にプリンの保管している〖胃袋〗から食材を出していた。


 と言うのも、プリンの〖胃袋〗は時間による劣化がある。

 その為、食材を無駄にしない為にも、プリンの〖胃袋〗から優先的に使うようにしていた。


 いや、それ以前に休憩用のティーセットやら調理器具の類は、僕の無限庫に入っている。

 食材だけ有っても、僕達以外、完全に石化しているこの村では、料理すら難しいのではないだろうか?

 更に言うならローラが狼の姿をしている事から推測するに、かなりお腹が空いている状態なのだろう。

 つまり…魔力切れを起こした僕は、結構な時間、気絶していた事になる。


 そう思って、周囲を見渡す…どうやら、夜が明けた…だけではなく、かなり日が高くなっている様に感じる。

 そして、罅割れた壁と赤い物を見た時、その動きが止まった…僕にはそれが、大量の血の痕あとだと直ぐに気が付いた。


「も、もしかして…。」


 そう呟いて、クズハの顔を見る。

 顔を見られたクズハは、そっと視線を外した…。

 既に赦すと言った手前、ローラを責めるのは間違っている…だが、これほどとは思っていないかった…。

 クズハの事だから、いつもの心配性で最上級の回復魔法を使っていただけで、せいぜい…骨折くらいかな?と思っていた。

 だが、いつもの『どもり』が無い事に疑問を思わなかったのが間違いだったと気が付いた。

 沸々と湧き上がる怒り…赦すと言った…言ったのだが…。


「ローラッ!!」


 気が付いたら、〖魔王化〗して怒鳴っていた。


「キャインッ!!」


 ローラは、その怒気に触れ、暫くの間、尻尾を垂らしガクブルと震えていたのだった…ちゃんちゃん…。

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