301ページ目…特殊任務

「オッサン、どう言う事だッ!?」

「オッサン言うなッ!!

 いや、今はそんな事どうでも良い!

 それよりも、レオナが君に伝えた通りだ。

 魔族側から正式に宣戦布告がなされ、既に侵攻が始まったらしい!」


 そう…メルトの町のギルドマスターであるラオンさんからの火急な呼び出しと称して、今朝早く、レオナさんに呼び出されたのだ。

 ちなみに、レオナさんと言うのは、とあるゴーレムの体内に封印されていた死体を元にレヴェナントと呼ばれるアンデッドだったりする。

 所謂いわゆる、魔物モンスターとして、僕が生き返らせた女の子なのだが、ラオンさんにお願いしてギルド職員として働いて貰っていたりする。


「クソッ!魔王教…じゃなかった魔神教団の事を報告してから、まだ四日しか経っていないのに、早すぎる!」


 先日、バカ貴族の依頼…正確には、冒険者仲間のアイアンさんの依頼でドワーフが鍛えた聖剣を手に入れる事があった。

 その際、バカ貴族に剣を渡そうかと言った時、下級魔族であるレッサーデーモンの襲撃があった。

 余談ではあるが、その時、バカ貴族に渡したのは、聖剣ではなくドワーフのアルテイシアさんが、物の五分で作り上げた件だったりするのだが…。


 だが、そんな魔族に対抗する武器を手に入れようとしていたバカ貴族は、魔神教団を名乗る者達の手で暗殺されてしまったのだ。

 その為、魔族の活動が、今まで以上に激しくなってきている…と僕はメルトの町に戻った時、ラオンさんに報告…と言うか、注意したのが、先程も言ったが、四日前の事である。


「あぁ、その事については、ギルドネットワークで報告して情報の共有化をする事が出来た。

 いや…今回、これほど早く情報が回ってきたのも、その報告があったからこそとも言えるだろう。

 つまり、我々、冒険者ギルドが、魔族側から何らかの動きがあるかもと警戒を務めた矢先の事だったのだ。」

「ですが、こちら側には勇者セイギの仲間であったドランさんが命懸けで作った、ダンジョン産の対魔族用である聖なる武防具が、最近、大量に出回っていると聞いています。

 流石に、そう易々と敵に敗北する事はないはずですが…。」

「あぁ、それでも下級魔族であるレッサーデーモンの数が非常に多く、数の暴力ではないが、押され気味であるとの事だ。

 それと…別件になるか分からんが、どう言う訳か、その魔族の中に一人の少年が混じっていると言う話だ。

 そしてこれは未確認な情報ではあるが…その少年は魔族から『魔王様』…そう呼ばれていたそうだ。」

「ま、魔王ですか…しかも、少年が…。」

「あぁ、こちらに入ってきた情報だと…な。

 もし…その少年が本当に魔王であった場合、君はその子を倒せるのか?」


 本当に、その少年は魔王なのだろうか?

 もしそうなら、僕と同じ様に、魔王の魂の半分を持っているのだろうか?

 だとしたら…その脅威は、計り知れない物となるのではないだろうか?


「えっと…その子を攻撃出来るか?と言う事ならば問題はありませんよ?

 ただ、勝てるか…と言う方なら、やってみないと分かりません。

 でもまぁ、僕だけで戦う訳ではなく、プリン達が居ますからね…絶対に負ける気はないですけどね?」

「オイオイ…子供相手に攻撃出来るのかよ…。」

「えぇ…そもそも、魔王の強さは、現状、僕が一番知ってますから…。

 ならば、相手が、どんな姿をしていようと、躊躇している暇はありませんから。

 とは言え、そんな少年が居るのでしたら、魔神教団が出て来たのかも知れませんね…。」

「ん?それはどういう事だ?」

「いえ、正直な話、魔王がガチガチの化け物だったら、多分、人間は恐怖するだけです。

 ですが、魔王が人の姿を…しかも、少年の姿だったら?

 その、か弱いであろう少年が魔族を従える…それはある種のカリスマとして特定の人間の目には映るはずです。

 もしそうなら…その少年は、魔神教団の人にとっては、神聖な御子として崇められる事になる。

 僕の…前に住んでいた世界では、宗教により戦争が起こり、多くの人が亡くなったと聞いています。

 つまり…事によっては、こちらの世界でも弾圧と言う形で、魔族だけではなく人間とも戦争が始まるかも知れません。

 そうなったら…どれだけ被害が出るか…。」

「クソッ!!だから魔神教団が各地で出没しているのかッ!」


 ラオンさんは机を『ドンッ!』と強く叩き、憤りを見せる。


「スマン…事が事だけに、早急に騒動を鎮めねばならん。

 魔族が動き出した今、一刻も早く、その魔王とやらを殺さねばこの世界が滅んでしまうかもしれん…。

 こんな事を、一介の冒険者であるお前に頼むのは筋違いなのは判っている。

 だが、敢えてお願いする…どうか、魔王を倒してくれ。」


 そう言って、ギルドマスターであるラオンさんは土下座をして頼み込んでくる。

 普段の僕であれば、このタイミングであれば、『え~』とか『やだ』とか言ったであろう。

 だが、僕の心の中のもう一人の存在が強く主張してくる。


「はぁ~…ったく、分かりましたよ…やれば良いんでしょ、やれば!

 但し、当然ながら、必要経費はギルド持ちなんで覚悟し解いて下さいよ?」

「な、なるべく安く済ませてくれよ?

 最近、お前のダンジョンのお陰で、予算が増えたとは言え田舎のギルドに、そんな高い予算なんて無いからな?」

「ラオンさん…この場合、世界を救うのに値切ったらダメでしょ…。

 それに、世界を救った後なら、世界を救ってやったんだから費用をカンパしろって…他のギルドにも費用を負担して貰えば良いんですよ。」

「何ッ!?…その手があったか!」

「もっとも、他のギルドもそれ相応の出費があるので断られるかも知れませんが。」

「オイオイ…。」


 僕のツッコミに呆れる様な顔をするラオンさん…まぁ、その気持は分からない訳ではないが…。


「まぁ、大丈夫ですよ…これでもダンジョンマスターですからね。

 被害としては、基本的な消耗品とかを僕のダンジョンから算出しますので、せいぜいダンジョンが枯渇する程度ですよ。」

「グハッ!?この町の大事な収入源が…。」


 いや、流石に僕でもダンジョンが枯渇する様な運営の仕方はしないつもりだぞ?


「何はともあれ、特殊任務、確かに承りました。

 これより、任務に当たります。」


 僕はそう言うと、未だ、ダンジョンの枯渇発言でシクシクと泣き崩れているラオンさんを置いて、我が家へと向かうのだった…。

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