288ページ目…聖剣の鍛冶師【4】
『ガツガツ、ガツガツ…。』
そして、次々と彼女のお腹の中へと消えていく食料。
果たして、どちらが先に限界を迎えるのか…と思うほどの勢いで、僕の無限庫から調理済みの食料が消えていく。
実の所、彼女…アルテイシアさんのお腹の中には、そこらの冒険者が1週間は食べていけるほどの食料が、質量保存の法則を無視して消えている。
それも、僅か30分足らずで…である。
これって、元の世界に連れて行ったら、フードファイターとして一躍有名になれるんじゃないだろうか?
と、目の前で起きている現象に、現実逃避をしていたのだが…。
「ふ~…食べた食べた♪とは言え、まだ腹八分目なんだけどね~。
とは言え、これからお仕事の依頼を受けるんだから、満腹で動け無くなっちゃったら本末転倒だから、コレくらいで我慢しなきゃね?」
アルテイシアさんは、そう言って軽くウインクをする。
このアルテイシアさん…そこら辺のドワーフの女性の体型…ふくよかと言うか、ぽっちゃりと言うか…デ○と言う様な体型ではなく、モデル並みの…所謂、ボン!キュッ!ボン!で、更に言うなら顔も悪くない…むしろ、綺麗と言っても過言ではない。
つまり、先程のウインクは凄く様さまになっているのである。
で、本人にその気がなくても、僕の隣には愛しの嫁~ズが一人、クズハが居る訳で…。
「あ、あの…私の旦那様に色目を使うのは、や、止めて下さい…。」
「えッ!?わ、私、そんな事してないわよ?ね?ねッ?!」
クズハに言われて慌てるアルテイシアさん。
その上、僕に同意を求めてくるあたり、テンパり過ぎである。
まぁ、アレは色目と言うよりは挨拶みたいな物なんだが…それにしても、あのクズハが他人に対して色目を使うな…か。
クズハも色々な意味で強くなった物だ…と、改めて感心する。
なので…僕はアルテイシアさんから見えない様に、彼女…クズハの尻尾を優しく撫でる事にする。
ただ、気を付けないといけないのは、あくまでも優しく…である。
これが優しくではなく『やらしく』触ってしまったら、今日の夜は、大変な事になってしまうであろう事は、暗黙のルールがあるのは秘密である。
何はともあれ、僕に優しく尻尾を触られた事により、怒りの方も、だいぶ治まった様で怒った顔が笑顔へと変わる。
もっとも、内心ではまだ怒りの火種がくすぶっているはずので、再燃しない様に最新の注意が必要だと思われる。
「そ、それで…貴女は本当に聖剣を打つ事が出来るんですか?」
クズハが話題を聖剣の事に付いて話を戻す。
「えぇ、材料さえあれば…ですが…。」
そう言って、アルテイシアさんは視線を地面へと落とす。
これは…視線を逸らしたのか、落ち込んだのか判断が出来ないぞ?
「えっと…先程も言いましたが、材料はこちらで用意します。
とは言え、足りない材料があると困るので、確認して貰わないと…ですが。」
「ほ、本当ですかッ!?
良かった~、それなら私の方は何の問題もありません!」
そう言って、目をキラキラとさせるアルテイシアさん…はて?何か忘れている様な…。
「あ、あの…念の為、確認しますが…先程、貴方は食事を提供する代わりに聖剣を打つと言う依頼を了承したのを覚えていますか?」
僕が何かを忘れていると考えていると、クズハがアルテイシアさんに確認を取る。
「え…それって、依頼料…は?」
「す、既に先払いで、貴方のお腹の中ですね…。」
空腹で、ぶっ倒れているヤツに飯を食わせたからタダ働き…と、言うのは人として、どうかと思うがクズハはそれで契約したと言い張るつもりの様だ。
まぁ…確かに、その様な内容で了承の言質は取ってあるので、あながち嘘ではないのだが…。
「まぁ、こちらとしては早く聖剣を持って帰りたいので、早く作ってくれれば、それに応じて特別報酬を出しますよ。」
「ほ、本当ですかッ!?だったら、今すぐ打ちます!早く材料を用意して下さい!」
「そ、それは構いませんが、炉の火が消えてるみたいですが良いんですか?」
そう…この小屋…もとい、工房に入ってから思った事の1つに、他の工房と違い、炉が燃えている匂いがしないのだ。
否、匂いがしないと言うよりも、何年も使われていない様な、嫌な匂いがしないのだ。
「なんだ、そんな事か…その点はご安心を。
こう見えても、私は火の精霊と契約していて、そこらの鍛冶屋と違って薪や石炭とかで炉を燃やす必要がないんです!」
ドヤ顔で言い放つアルテイシアさん…まぁ、確かに火の精霊が力を貸すのであれば、炉に火が入っていなくても問題ないのかもしれないな…。
「分かりました、では…僕の持っている材料を出していきますので、確認をお願いします。」
こうして材料をアルテイシアさんに渡す事になったのだが…。
◇◆◇◆◇◆◇
「きゃ~、オリハルコン鉱石がある~!
嘘ッ!?こっちにはアダマンタイトまであるじゃないッ!!」
正直な話、僕は見ないと何が何だか分からない金属の塊。
だが、本職のアルテイシアさんには一目瞭然だったみたいで、あっちの塊を見ては悲鳴を上げ、こっちの塊を見ては悲鳴を上げると言う、どこぞの女子高生かと言うほど賑やかになっていた。
「で、アルテイシアさん、足りない材料ってありますか?」
キャーキャー言うだけで、どれが必要とか言わないアルテイシアさんに対し、僕はシビレを切らして声を掛ける。
「ハァハァ、ハァハァ…え?何か言いました?」
…どうやら興奮して聞いていなかった様だ。
「ですから…聖剣を打つのに、ここにある材料だけで足りますか?と言ったんですよ。」
「えぇ、もちろん足りるわよ。
と言うより、使わない方が多いわね…で、物は相談なんだけど…。」
「何か、嫌な予感がしますが…何ですか?」
何とな~く予想が付いたのだが、僕は確認の為に彼女に聞いてみる。
「え、えっとね…はしたない事を言っちゃうんだけど…恥を忍んで言うわ…ね。
そ、その…使わなかった素材を少し頂戴ッ!!」
そう言って全力で頭を下げる…その角度は90度を遙かに超え、何と180度近くまで下がっていた。
ふむ、これは予想通りだな…なので、僕は即答でこう答えた。
「お断りします。」
突如として訪れる静寂…流石に即答で断られるとは思っても居なかった様で、アルテイシアさんは動きを止め、口をパクパクするだけの人形とかしている。
クズハは、あ~ぁと溜息混じりで僕の方を見上げる様に見ている。
仕方がない…ここは1つ、クズハに良い所を見せてあげるとするか…。
「と、言いたい所ですが…そうですね、先程の約束…特別報酬の中に、素材を分ける…と言うのを付け加えましょう。」
僕がそう言うと、アルテイシアさんの金縛りは解ける…そして、次の瞬間…。
「あ、ありがと~~~!」
「させませんッ!!」
嬉しさのあまり、僕へと抱き付いて来ようとするアルテイシアさん…そして、クズハは予知でもしていたのかと思うほど、俊敏かつ正確無比にアルテイシアさんの鳩尾と額に打撃を与える…。
アレって、空手か何かの技に合った様な…いや、それよりも実戦で使える技だったのか?
謎が謎を呼ぶその技は、何と、アルテイシアさんを悶絶させることなく意識を刈り取り、気絶へと追い込んだ。
いや、だから…僕は早く聖剣を打って貰って、帰りたいんだってば…。
こうして、再びアルテイシアさんが目を覚ますまでの間、僕達は無駄な時間を過ごす事となったのだった…。
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