250ページ目…ダンジョンマスターの憂鬱【9】

「失礼します。」


 僕はそう言うと部屋のドアを開けて中に入る。

 まぁ、こんな事言わなくても、ラオンさんは何も言われないのだが、仮にも相手は、この部屋の主で冒険者ギルドのギルドマスター…そして、あくまでも僕は冒険者なのだ。

 故に、少しは敬う事はするのは当然である。


「ってな事で…ラオンさん、高級回復薬ハイポーション持ってきたよ。」


 この態度の何処に敬う気持ちが入っているかは疑問だが、依頼の品を持ってきた事を告げる。


「何が『ってな事で…』なのか分からんが、相変わらず、仕事が早いな。

 まぁ、こっちとしては大いに助かるのだがな。

 それで、高級回復薬は…その鞄の中か?」

「正解です…あ、ちなみに…依頼は20本でしたが、気の利いた執事さんが4本ほど、予備として持たせてくれました。」

「執事?メイドじゃなくて?」

「あぁ、持たせてくれたのはアリスじゃないですよ?

 ダンジョン内の店員さんにバトラーのリッチがいまして…。」

「ん?戦士バトラーなのにリッチなのか?」


 うん、ラオンさんが疑問に思うのも無理はない。

 何せ、この世界ではリッチと言うのは、殆どが魔法使いと言う認識なのだから…。

 もっとも…僕の記憶が確かなら、執事のバトラーの語源も戦士から来ているなんて言うのも聞いたことがある様な気がするので…確かに、戦士なのか魔法使いなのか、どっちやねん!と思わなくもない。


 とは言え、此処はちゃんと訂正しようと思う。


「いえ、そっちのバトラーではなく、先程も言いましたが執事の方のバトラーですよ。」

「あぁ、さっき言ってた執事がリッチだったのか…って、噂には聞いていたが、ダンジョン内にある雑貨屋の店員と言うのは、やはり不死者アンデッドのリッチだったのか…。」

「えぇ…でも、噂って何ですか?」


 僕は、その噂と言うのを聞いた事がないのでラオンさんに確認をする。


「ん?お前は聞いた事がなかったのか?」


「えぇ…ってか、聞いた事がないから何なのかって聞いてんじゃん…。」


 ラオンさんが僕の事を『お前』と呼んだ事で、此処からはフレンドリータイムの始まりだ。


「いや何、お前のダンジョンって今、色々と話題になってきてんだよ。

 んで、当然ながら怪我をするヤツもいる訳だ。」

「ですね…一応、無茶をしなければ浅い階層であれば死人は出ない様に調整はしてあると思いますが…。」

「おぅ、その事に関しては、他のダンジョンに比べたら深い階層でも生存率はかなり高めだな。

 で、本題なんだが…10階層毎に、雑貨屋を置いて回復薬を扱ってるそうじゃね~か。」

「まぁ、買うか買わないかは、その人の勝手ですけど…ね。

 あと、正確には各10階層前の安全地帯セーフティーエリアの階段で…ですけどね。」

「確かにな…余裕があれば買うだろうし、無ければ引き返すだろうしな。」

「ですね…こっちとしては下手に死なれるよりは…程度のつもりですが…。」


 そう…何となく、僕的に死なれると何となく嫌だな…と言う事で、死亡率を下げる為に用意したのが雑貨屋だったのだ。

 それでも無茶をして死んだりするのまでは面倒を見きれない…冒険者である以上、全てにおいて自己責任なのだ。


「で…だ、噂ってのが、その雑貨屋に店主が不死者じゃないかってのは直ぐに広がったんだが…その不死者ってのが、どんな種族か…って話になってな?」


 基本的には、ローブを深く被り、顔を仮面で隠す様にしている為、不審人物ではあるが、わざわざ正体を調べる人はいないらしい。

 ただ、それでも多少なりともその正体に気が付く人もいる様である。


「あぁ、それでリッチじゃないか?…と。」

「まぁ、冒険者として、かなりランクが高くないとリッチなんて魔物と戦う機会なんて、まず無いからな…。」

「そうなんですか?とりあえず、僕としては雑貨屋を襲ってでも商品を手に入れようとする輩を、実力で排除出来る様にする為にランクの高い魔物で、人の言葉を理解出来る魔物…と条件で考えたら、元人間だったリッチに白羽の矢が立った…と、言う訳なんですけど。」

「まぁ、実力で排除する事それに関しては俺から言う事はないな。

 とは言え、そのリッチ店員が怖くて商品を買えないって話も、ちらほら聞いてるもんだからよ…。」

「あ~…何も知らずに暗がりで…だったら、確かにトラウマになるかも知れませんね…。」


 僕だって、暗闇でいきなりリッチに会ったら、驚いて逃げるかもしれない。


「まぁ、そう言う事だ…で、一部の冒険者達が不死者が店番してるもんだから、代金は魂を請求されるんじゃないかって騒いでたりする訳だ。

 まぁ、実際に雑貨屋で買い物をしたヤツらはダンジョンの中だから少し割高だが、命あっての物種…。

 しかも、市販の物よりも効果が高いから損はしていないとか、魂を取られる事はないから大丈夫だって言ってるんだが、信じられないとかで偶に喧嘩になるんだわ。」

「そ、そうですか…でも、人を雇ったり弱い魔物とかじゃ商品を守れませんし…雑貨屋を襲えば手に入る点なんて認識になっても困りますからね…。

 それに、撤去したら確実に死者増えますよね?」

「あぁ、それは俺も理解している。

 だから、俺も先程も何も言う事はない…と言ったんだ。

 とは言え…疑問なんだが他の者を店員にするって事は出来ないのか?」


 何も言わないと言いながら、変更可能か聞いてくる辺り、ラオンさんらしいと言えるだろう。

 そもそも、そんなラオンさんだからこそ、僕はこの町を拠点としたのだから…。

「まぁ、何か考えてみますが…基本的に商品を取り扱い出来る魔物なんて、僕のダンジョンでは今の所、不死者しかいませんからね?あまり期待しないで下さいよ?」


 少し憂鬱になった僕は、そう言いながら大きな大きな溜息を付くのであった…。

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