246ページ目…ダンジョンマスターの憂鬱【5】

 ギルドマスターのラオンさんから渡された依頼書…そこには幾つかのクエストが掲載されていた。


 一つ、ダンジョン産の高級回復薬ハイポーションの納品。

 一つ、ドラゴン素材の納品。

 一つ、帰らずの森に出現したスライムの討伐。

 一つ、魔法銀ミスリル鉱石の納品。


 …うん、色々とツッコみ満載のラインナップだ。


 と、言うか…最初と最後の内容であれば、確かにAランクの冒険者ならば納品は可能だろう…それが今日中と言う条件でなければ…。


 そして、ドラゴン素材の納品と言う事は、余程、市場で運良く見付けない限りは、実際にドラゴンを倒さないといけない事を意味する。

 普通に考えて、ドラゴンと呼ばれてる魔物を倒すのにAランクの冒険者が一人で立ち向かって勝てる確率は…無謀と呼ばれるレベルで、かなり低いはずだ。


 それに、今日言って今日納品…なんて、ドラゴンが住んでいる場所まで行くだけでも何日も時間が掛かるのだから、はっきり言って不可能な話である。


 更に言うなら、帰らずの森のスライムの討伐だと?

 通常のスライム如きでは、Aランクの冒険者に依頼が来るはずがない。

 おそらくは、異常発生で手をこまねいている…と思われる。


「あの…これ、本当にクリアさせるつもりあるんですか?」

「ま、まぁ…一応、お前なら可能だと思ってはいるが…。」


 そう言いながら、ラオンさんは、そっと僕から目線を逸らす。


「つまり、普通なら無理だと思ってる訳ですよね?」


 視線を逸したラオンさんに追撃をする。


「ッ!…し、仕方がないだろ!死の大地…魔族領で、魔族が暴れ出したとかで、今は何処の街や町…村々でさえ、回復薬ポーションやらの備蓄、魔族と対抗する為の武防具の作成に力を入れているんだから…。

 当然、その素材を集める為に、こんな田舎の冒険者ギルドにも依頼が来るのは仕方がない事だろうが!」

「まぁ…分からない訳でもないですが…何故、Aランクのクエストなのに今日中にってなったんですか?」

「そ、それは…。」

「それは?もしかして、言えない事なんですか?」


 ラオンさんの態度に不審に思った僕は、掘り下げて聞いてみた。


「い、いや…そう言う訳では…あ~分かったよ!言えば良いんだろ!

 お前の事だから、既に分かって言ってるんだろうが、貴族のバカ共の所為だよ!

 貴族達は、自分達で魔族に対してどうこうする訳ではないのだが、は確保したいみたいで、ギルドに無理難題をどんどん押しつけて来やがる!

 その所為で、ギルドに来ている依頼も、どんどん溜まっていく一方…。

 そんな訳で、ランク保持の期間を短くして冒険者に集めさせるって決定が、上から下されたんだよ…。」

「予想はしてましたが…やっぱり、貴族達の所為だったんですね…。」


 この世界に来てから、ちょくちょく耳にしていた貴族達の無理難題。

 それが冒険者ギルドにまで影響を及ぼしているとは…予想していた事とは言え、呆れて物が言えないとは、この事なのだろうか?


「あぁ、お前には、本当にはすまないと思う…。」


 そう言って、頭を下げるラオンさん…とは言え、この問題がメルトだけではなく、色々な所で問題になっているのだから、ラオンさんの所為ではないと思う。


「それはそうと…一つ気になったんですが…このスライムの討伐なんですが、何でこんな物が紛れてるんですか?

 通常であれば、スライムはFランク…は、無理でもEランクやDランクの冒険者達でも処理出来るのでは?」

「あぁ、俺もこの案件は可笑しいと思い、部下を使って調べた所、どうやら異常種らしいんだ。」

「異常種ですか?希少種なら聞いた事があるんですが異常種は聞いた事がないんですけど…。」

「あぁ…異常種とは文字通り、異常に進化した種族を指す言葉だな。

 まぁ、プリンさんみたいに人化を使える希少種も十分、異常と言えるほど珍しいとのだが…プリンさんに関しては、実害がないから無視して話すが…。」

「ラオンさん、人の嫁を異常だとか実害が…とか、いくら僕でも本気マジで怒りますよ?」

「す、すまん…私も悪気があった訳ではないんだ…。

 えっと…それで、話を戻すが、そのスライムなんだが、Cランクの冒険者パーティー…6人が挑み、その内、半数以上がやられ、残りの半数も殆どが重傷で逃げ帰ったと言う話なんだ…。

 それ故、早めに退治しなくてはと言う事になって…それで、うちに回って来たと言う訳なんだよ…。」

「それって、どう考えても僕達を指名してる様な物ですよね?」

「まぁ、否定は出来んな…こんな田舎にいるAランクの冒険者なんて、お前達しかいないしな…。」

「うわッ!こいつ、開き直りやがった…。」


 何とも酷い話である。


「まぁ、そう言うな…正直、お前達に頼るしかないんだから…。」


 そう言ってラオンさんは後頭部をガリガリと掻く。


「ったく、途中からギルドマスターとしてじゃなく友人として話やがって…まぁ、ラオンさんだから仕方ないけどさ…。

 ちなみに…ギルドお抱えのレオナはどうしてるんだ?」


 ギルドお抱えの冒険者…レオナと言うのは、僕の魔法で不死者アンデッドとして甦った、オリハルコンゴーレムの中に封じられていた女の子の事だ。


「あぁ、あの子なら、別件の依頼で、余所の街へ行って貰ってる。」


 道理で待機部屋で見掛けない訳だ。


「なるほど…ね。

 それで、優先順位ってのはあるのか?」


 どれも急いだ方が良い様な気もするが、その中でも2つだけは特に早めに解決した方が良い案件だ。


「いや、特には無いな…強いて言えば、この…スライムと高級回復薬は急いだ方が良いと思うが…。」


 やはり、その2つが優先順位が高いみたいだな。


「まぁ、高級回復薬くらいしか今日中にってのは無理だと思うぞ?」

「あぁ、それは分かってる…だから、確実にクリア出来ると思われるクエストを入れて置いたんだからな。」

「はいはい…ちなみに、あんまり無茶なクエスト押しつけてくる様なら、いい加減、冒険者止めるからな?」

「あぁ、それも分かってる…だから、こうやって頭を下げてるんだろ?」


 そう言って、ラオンさんは苦笑する。


「はいはい、頭下げてるヤツの態度じゃね~けどな。」

「まぁ、それだけ信用してるって事だ…とりあえず、お前相手に言うのもアレだが、気を付けろよ?」

「了解!とりあえず、まぁ…高級回復薬ならダンジョン行けば直ぐに手に入るから、夕方までには持ってくるさ。」

「あぁ、頼んだぞ、ダンジョンマスター(笑)!」

「(笑)は余計だ!つか、こんな所でダンジョンマスターと呼ぶな!

 誰かに聞かれたら、どうするともりだ!!」


 僕はそう言うと、ギルドマスターの部屋を出て行くのだった…。

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