239ページ目…襲撃?いえ、テンプレです。【1】

 今、僕達は聖王都から車で約30分ほどの所にある村に来ている。

 と、言うのも…何と、僕達は盗賊団に襲われたのだ。


 もっとも、そこら辺にいる盗賊団如きが、僕達に敵う訳はないのだが…。

 とは言え、流石に倒した盗賊をそのまま放置する訳にはいかず、近くの村に届けて懸賞金を貰う為だったりする。


◇◆◇◆◇◆◇


 少し時間は遡る…僕が車を運転し始めて5分ほど時間が経った頃、プリンが僕に声を掛けてきた。


「ねぇ、ご主人様、そろそろ私にも運転させて下さい。」


 と…しかし、以前、プリンに運転させた時、いきなりアクセル全開にして制限速度オーバー(異世界なので、実際には制限速度はありません)で運転し、物凄く怖い思いをした為に、よっぽどの事がないと、プリンには運転させない事に決めていたのだ。


「いや、プリンに運転させるのは、ちょっと…。」

「大丈夫!今度はちゃんと運転覚えたから。」


 はい、この時点でダメダメ感が満載です。

 そもそも『今度はちゃんと』…つまり、前回はちゃんと覚えてないのに運転した事になります。

 まぁ、もっとも…慌てて、ブレーキを踏む様にって言った時に、『ブレーキってどれ?』って言われてるのだから覚えてないのは明白だったんだけどね。


 そんな事があったので、プリンに運転させたくないのだ。


「ダメです…前にも同じ事言ってたでしょ?」

「ダメなの?クズハさんには運転させるのに?」

「ク、クズハは安全運転するから…。」


 プリンに上目遣いされて、つい、どもってしまう…。

 好きな女の子の上目遣いは反則です。


「だったら、私も安全運転するから!ねっ、お願い♪」

「…ちょっとでも危ないと思ったら、終了だからね?

 ちゃんと、アクセルとブレーキ覚えてるよね?」

「うん♪ちゃんと覚えたって言ったでしょ?」


 っと、まぁ…こんな感じで、コロリと陥落されてしまうのだった。

 プリンの為に、この世界を敵に回そうとした僕には、プリンのお願い(笑顔付き)に逆らえず、コロリと許可しちゃった自分を後悔したのは、それから約20分後の事だった。


☆★☆★☆★☆


 突然、僕達の車の前に複数人の男が飛び出してきた。

 そして、当然の如く手には武器が…。

 まぁ、馬の姿が無いとは言えオープンカー状態で走っていた事もあり、遠目で馬車に見えたのだろう。

 その為、愚かにも盗賊達は車の前に飛び出してきたのだ。


 ちなみに、通常の馬車であれば時速10~15kmも出れば早い方なのではないだろうか?

 だけど、プリンの運転である為、体感速度で時速80kmは出ていると思われる。

 まぁ、オープンカー状態の為、それなりの風圧で体感速度がある分を差し引いても、余裕で60kmは出てるのは間違いないだろう。


 で、そんな速度の車は、当然の事ながら急には止まれない訳で…。


「プリン、ブレーキ!ブレーキッ!!」


 慌てる僕の言葉にプリンは…と、言うと、間違ってアクセルを踏み込んだ。


「止まれー!、大人しブギャッ!」


 『ドンッ!』と音と共に後方へと回転しながら吹き飛ぶ男…。

 そして、遠ざかる『お頭ーッ!!』と叫ぶ、複数の声…うん、車に撥ねられたのは、盗賊団のお頭だったみたいだ。


 …じゃなくて、ノーブレーキどころか、加速して撥ねられたお頭さん…安全運転は何処に行った!


「ちょ、プリン、マジで止まれッ!」


 交通事故を起こしておきながら、走り去ろうとするプリンに待ったを掛ける。


「え?何でですか?」

「いや、『何で』じゃないだろ…今、人を撥ねたんだぞ?!」

「でも、盗賊でしたよね?」


 …もしかすると、間違ってアクセルを踏んだのではなく、敢えて加速する為にアクセルを踏んだのでは?と心配になってくる。

 考えてみたら、オークを車で轢き殺した事もあったんだよな…。


「盗賊でも、人を撥ねてる時点で安全運転じゃないだろ!」

「え~、でも、止まったら盗賊に襲われるの訳ですから、そっちの方が安全運転じゃないのでは?」


 確かに、安全かどうかで言えば、襲われる可能性が高い以上、安全ではないと言えよう。

 だが、こちらの戦力を考えると、そこらの盗賊ゴミなど物の数には入らないだろう。


 とは言え、僕から注意されたからか、プリンはちゃんとブレーキを踏んで、事故現場から少し離れた所で車を停車させる。


 なので、僕は急いで車から降りて盗賊団の方へと走っていく。

 そして、盗賊団の所に着く頃には、15人ほどの人集りが出来ていた。


「だ、大丈夫ですか?!」


 事故現場に着いた僕は、急いで声を掛ける。


「大丈夫な訳あるか!普通、馬車の前に人が出たら馬車を止めるだろうが!」


 正論ではあるが、止まったら止まったで、お前達に襲われるんだが…と、ツッコミたいのをグッと我慢した。


「そうだそうだ!この落とし前、どう責任取るつもりだ!」

「それより、お頭が重症なんだ、きっちり慰謝料を貰うからな!」


 等々、文句を言ってくる盗賊達…うん、理不尽である。


「あの…皆さん、盗賊ですよね?」

「あぁ!それがどうしたッ!」


 僕のバカみたいな質問に素直に答え、言質を取らせてくれた。

 これで、この事故を揉み消す事が出来る…そう考えた僕は次の手を打つ。


「え、えっと…ですね、降参したら金品を少し分けるだけで手を出さないってルールは適応されますか?」


 そう、次の手とはこの確認作業だった。

 通常、この世界の盗賊と言うのは、金品を全部奪う事はしない…まぁ、女性を連れている場合、女性も攫われ奴隷等にされる事があるが、基本的には殺人を犯す事は少ない。


 何故なら、殺人を犯す盗賊団となると、国が本格的に動き討伐対象になる為、軍隊を派遣して盗賊狩りをする様になるのだ。

 まぁ、目撃者がいなければ、バレる事は少ないのだが…それでも危険を犯すよりも、ある程度の金額の通行料をせしめる方が何倍も安全な為、通常なら殺人を犯す選択肢を取る事はない。


「はぁ!?お頭にコレだけの事しておいて、降参なんか認める訳ないだろうが!!」


 おそらく、お頭の次に偉いヤツなんだろうな…そいつが叫ぶと、他のみんなも頷き降参は認めない事が分かった。


「はぁ…仕方がないか…。」


 僕は溜息を付きつつ、ちょっとだけ力を解放して盗賊団に威圧する。

 次の瞬間、僕の威圧に耐えられず気を失った盗賊団の山が出来上がった。


「うへ…やっぱ、こうなるのか…。」


 そう…力を限界まで押さえ込まないと、称号にもある様に〖魔神〗の力の影響でとんでもない事になる様だ。

 その為、少し力を開放しただけで、その余波を受けた盗賊団は、一部の人を除き、かなりの人数がお漏らしをしている訳で…こんなヤツらに近付きたくないのだが、相手が盗賊と言う事もあって流石に放置する訳にもいかず、全員、ロープで縛り上げ車で引っ張り近くの村に連行する事になったのだ。


 ちなみに、盗賊団のお頭さんは、回復魔法のお陰で、一命は取り止めている…うん、死ななくて良かった。


◇◆◇◆◇◆◇


「あの…大変申し訳ありませんが、事情聴取や確認の為、盗賊団の賞金は直ぐにはお渡しする事が出来ません。

 すいませんが、明後日のお昼頃に、もう一度来ていただけないでしょうか?」


 村の役場に盗賊団を突き出すと、役場の人が僕達にそう言ってきた。

 まぁ、こちらとしては車で移動してたとは言え、急ぐ旅でもないので問題ないのだが…。


「それは構いませんが宿代とかは、自己負担ですか?」


 ぶっちゃけ、お金には全然困っていないのだが、基本的にケチな僕は、役所の人に尋ねる。


「あ…い、いえ、こちらの紹介する宿に泊まっていただけるのでしたら、宿泊費はこちらで見させて貰います。

 とは言え、先程も言いましたが賞金は明後日の支払いになりますので、宿泊費は立て替えて貰う事になりますが…その…大丈夫でしょうか?」

「え、えぇ…それくらいなら問題ないです。」


 何やかんやあり、村に到着したのは日も暮れかけた頃…そして、先程、盗賊を駐在所に送り届け、説明をして出てきた頃には、もう夕方になっていて、周囲も暗くなり始めていた。


 正直、村へ付くまでに時間が掛かり過ぎた為、盗賊を捕まえた報酬を辞退して、先に進もうと思ったのだが、下手に辞退すると、逆に疑われる為、急ぐ旅ではないので待つ事にしたのだ。


「助かります…それでは、のお昼頃、こちらをお持ちいただけたら賞金をお渡し出来ると思いますので、よろしくお願いします。」


 役場の人はそう言うと、金属で出来たプレートと、指定の宿屋までの地図を渡してくれた。

 こうして、僕達はこの村でする事になったのだった…。

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