224ページ目…魔族との戦い【1】

 空間の歪み…それは〖空間転移ゲート〗の魔法を使う僕にとって、とても馴染みの深い物だった。

 そして、僕と戦っていた魔族…ラドルの姿が消え、その後、プリンの側に空間の歪みが発生した事により僕の不安は一気に高まる。


 次の瞬間、今から転移するより直接走った方が早いと判断し僕は〖魔法:加速&身体強化アクセル・ブースト〗を発動すると、空間の歪み目掛けて最高速で一直線に走り、闘気剣オーラブレードを叩き込む…しかし、そこから出てきたのはひび割れた魔族の腕のみ…で、肝心の本体が居ない。

 直後、背後から放たれる巨大な火球ファイアーボール…いくら無詠唱とは言え、魔法は一瞬で放つ事が出来ない。

 クソッ!間に合わない!!…そう思った瞬間、この事を予想していたのか隣にいたプリンが魔法を発動させる。


「〖魔法:大地の防壁アースガード〗!ご主人様、大丈夫ですか?」


 次の瞬間、僕達と火球の間に、土属性の防壁が張られる。


『チュドーーーン!』


 プリンの防御魔法は、物の見事にラドルの火球を防ぎきった。

 いったい、いつから用意したのか…と思わせるほどのタイミングで防御魔法を発動させたプリンに、先程の質問の答えとして、『大丈夫だ』と告げつつ、僕は魔族の方を見る。

 すると、いつの間に回復したのか、魔族の左腕は何事もなかった様に生えていた。


「ヒャッハッハッハッ、そっちの嬢ちゃんもなかなかやるじゃね~か。

 だが、二人掛かりでも俺には勝てないだろうがな、ギャハハハハ!」


 頭のネジが数本飛んだ様なイカレた様な笑い方に、僕は鬱陶しいと思いつつも油断しない様にしていると、一瞬にして青白い炎に包まれる魔族…。

 そして、その横から突然と姿を現すクズハ…どうやら〖魔法:蜃気楼ミラージュ〗の魔法で自分の姿を見えなくして、一撃を浴びせる為に隠れていた様だ。


「ゆ、油断しましたね!私の最大火力の狐火を浴びて只で済むとは思わないで下さいッ!」


 どうやら、青白い炎はクズハの狐火だった様だ。

 だが…致命傷を与えていても可笑しくない程の、その攻撃は、虚しくもラドルが腕を一振りするとその炎は霧散する。


「なッ!?」


 僕の口から思わずら出たその言葉が、余程嬉しかったのかラドルはますます調子に乗って高笑いを上げる。


「ギャハハハッハ、おいおいおい、魔族である俺様が物理攻撃や只の魔法なんかで倒せる訳無いだろ?

 もしかして、お前達、魔族を舐めてるのか?」


 ラドルはそう言うと、クズハを風魔法で吹き飛ばすと再び転移して僕の前に現れる。


「ほら、どうした…攻撃してみろよ?つっても、お前が俺にダメージを与えれるのは、せいぜい〖魔法:浄化の炎メギドフレア〗だけだろがな、ギャハハハハ!」


 そう、確かに僕の攻撃でラドルにダメージを与えたのは〖浄化の炎〗だけである…先程の魔神拳でのダメージも核となる魔法は〖浄化の炎〗…なぜ、物理攻撃と魔法が効かないのに〖浄化の炎〗のみダメージを与える事が出来るのか…そこにラドルの攻略の鍵となるはずだ。

 僕は元の世界ので知識を総動員して魔族を倒す話を思い出す。


 良くあるのは、聖魔法や聖剣による攻撃…である。

 だけど、この世界には光魔法はあっても聖魔法と呼ばれる魔法はない。

 まぁ、その代わり聖属性を含む魔法はあるのだが…。

 只、〖浄化の炎〗はスケルトンなどのアンデッド以外にも、幽霊などの実体を持たない物を倒す事の出来る魔法なだけに、ある意味では『聖魔法』と言っても過言ではないだけの性能を秘めているのだけは確かである。

 余談ではあるが、〖浄化の炎〗は聖属性を含む火属性の魔法である。


 魔族は、数こそ少ないが強靱な肉体と強大な魔力を持ち合わせる種族…この前提で間違いないはず…。

 だが、もし…この前提が間違っているとしたら、どうだろう?


「一つ質問がある…何故、聖騎士団の副団長の体を奪ったんだ?」


 何故、そんな事を?と言われても答える事が出来ないが、気が付いたら疑問に思った事が僕の口からポロリと漏れた。

 そして、その言葉を聞いたラドルの顔が一瞬だけ恐怖に歪んだのを見逃さなかった。


「ギャハハハ、素晴らしい肉体を我が物にする為に決まってるだろ?

 転移者には様々な力を手に入れた者が多いからな…俺様が有効利用させて貰ってるだけだ!ギャハハハハハッ!」


 僕の口からポロリと出た疑問…それを誤魔化す為に聞いてない事まで語り出すラドル…。

 だが、僕は確かに聞いた…『素晴らしい肉体を我が物にする為』と…ならば、魔族の肉体と言うのは、素晴らしくないのか?

 先程までの前提である『魔族は強靱な肉体』…ではないとしたら?

 この前提を逆転して考えたらどうなる?


 そこまで考えた時、一つの物語を思い出した。

 それは、僕がファンタジーにハマる要因となった物語だった…。

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