220ページ目…魔族の思惑

 魔族にとって、人族は家畜同様な存在…その言葉を聞いて僕は唖然とする。

 だが、ショックを受けている僕よりも佐々木さんの反応の方が酷かった。


「喰らえ!〖魔法:浄化の炎メギドフレア〗!」


 佐々木さんは僕の影から飛び出すと、聖騎士団と呼ぶに相応しく、光属性の浄化魔法で魔族を攻撃する。

 この浄化の炎と言う魔法は幽霊などの物理攻撃が効かない魔物とかにも有効で、今回みたいに体を奪っていると言っていた魔族を追い出す為に放った魔法だと思われた。


 だが…魔族の男…ラドルは、右手を前に押し出し浄化の炎を消し去るとバカにするかの様にニヤニヤと笑いながら佐々木さんの方を向くと、声色を変えて声を掛けた。

 おそらく、この声色こそが副団長さんの声だったんだろうと思う…。


「佐々木さん、ダメじゃないですか…いつも、聖騎士団同士の戦闘行為は禁止と言ってるでしょ?

 それに…貴方如きの魔法では私には敵わないのは貴方が一番判っているはずですよね?」


 と…それを聞いた佐々木さんはラドルに向けて呼び掛けた。


「ま、松岡ッ!お前、そんなクソ魔族なんかに良い様に操られたままで良いのか?

 お前、言ってたじゃないか…元の世界に戻ったら、幼馴染みと結婚するってッ!」


 どうも、この副団長をしていた人の名前は松岡と言う名前だったみたいだ。

 だが、その後がいけない…この~が終わったら、~をする…所謂、フラグと呼ばれている物だ。

 だとするならば…この松岡と言う名前の副団長さんはもう…。


「無駄だ、生憎とこの男の魂は、既に、この世界には存在していない。

 我が取り付いて直ぐに消滅しておるわ!」


 ラドルはそう言うとクックックッと、人の神経を逆なでする様な笑い方で佐々木さんを挑発する。


 しかし、当の佐々木さんはと言うと…先程の魔法で魔力切れを起こしてる様で、フラフラしていて直ぐに立ち上がれる様な状態ではない。

 ならば、ここは…と、僕は無限庫インベントリから短剣を数本取り出すと投げナイフの要領でラドルへと〖投擲〗する。


 とは言え、只のナイフが魔族に効くはずがないであろう事は十分考えられる。

 なので、その短剣には魔法自体ではないが魔力と闘気を織り交ぜた、魔神剣擬きの状態で投げ付けてある。

 そして…僕が投げ付けた短剣を、無駄だと言わんばかりに、そのまま右手で弾こうとしたのだが…流石に魔神剣擬きの状態になっていた短剣は魔族の防御を上回っていた様だ。

 その短剣は、魔族の腕に刺さるのが見えた。


「グワァーーーーー!」


 魔族の腕に魔神剣と化した投げナイフ…短剣が刺さった次の瞬間、魔族は大きな叫び声を上げると大きく飛び退く…僕は改めて魔族の腕を見ると、そこには何もなかった。

 否!よく見ると何もないのではなく、今もそこから流れ出る血が次々と黒い霧となって消滅していたのだった。


「き、貴様!よくも我が腕を…この恨み、いつか必ず晴らしてくれる…それまで首を洗って待っているんだなッ!!」


 ラドルはそう言うと、〖空間転移〗の魔法を発動して、僕達の前から消える。


「く、くそーーー!戻って来やがれーーー!」


 佐々木さんは、自分が座っている屋根を、自分の手が傷付くのも忘れ何度も殴りつけて悔しがる。

 僕はその姿を見て、魔族を取り逃がした事を強く後悔するのだった。


◇◆◇◆◇◆◇


 翌日、僕は葬式に参加していた。

 と言うのも、佐々木さんの入っていた牢屋の前の首無し死体…それは、僕に喧嘩を売ってきたサブだったのだ。

 佐々木さんの証言で分かった事なのだが、どうやら魔族の目的は佐々木さんの記憶を消す為に来たのだと言う。

 そして、佐々木さんが抵抗している時にサブが運悪く遭遇…その時に、サブが逃げていればサブも命を失わなかったのだろうが、サブはその魔族に一歩も引く事無く攻撃を仕掛け…そして、頭部を吹き飛ばされ死んでしまった様だ。


 だが、ここで分からない事がある…何故、魔族…ラドルは記憶を消すと言う面倒な事をしたのか…と言う事だ。

 サブを簡単に殺害しているのに対し、佐々木さんは殺さない…むしろ、あえて生かしていたと言える。

 だが…その答えは、佐々木さんの口から知る事になった。


「あの時、魔族あいつが言っていた…俺達、転移者の中に、魔神の欠片を持つ者がいる…そいつが絶望する事こそが魔神の復活の鍵となる。

 だからこそ、俺達は殺されなかったと…。」


 その言葉…魔神の欠片と聞いて、僕は…僕の中に封印されていると言う、魔神…魔王となったゼロの魂の事を思い出す。

 魔族が言っていた事…それは、つまり…僕が絶望すれば魔神が復活すると言うのだろうか?

 だが、僕にはプリン達がいる…みんながいれば僕は絶望なんてしないだろうと強く思うのだった…。

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