133ページ目…ダンジョン脱出計画

 僕は〖魔法:空間転移ゲート〗によって開いた空間から、家の中にいるであろうプリンの名前を呼ぶ事により、こちらへと来て貰おうとする。

 暫くすると、プリンが声の出所を見付けて近付いてきた。


「あら、ご主人様…ゲートを開いているのに、こちらに来ないのですか?」

「い、いや…実は、ちょっとトラブルがあって…どうもダンジョンから出られなくなっちゃったんだよ…。」


 と言って、どう言う状態か見せる為にゲートに向けて手を伸ばす…すると、先程とは違い、僕の手はゲートの向こう側へ何の抵抗すらなく伸びていく。


「あ、あれ?」

「ダンジョンからですか…って、どうしました?」

「あ~…そう言う事か…。」


 そう…ダンジョンマスターがダンジョンから出るのが出来ないと言うのは、ダンジョンの出入り口から出る事が出来ないのであって〖空間転移ゲート〗みたいに空間自体を飛び越える場合には、残念ながらダンジョンの力は働かず、関係ない様だ。

 その証拠に、僕の手はダンジョンから向こう側へと出ている…先ほどは、壁に阻まれて手すら出る事が出来なかったのだ。


 って事は…これって、そのまま出ても良くね?

 とは言え、気になった実験をすると言うのも捨てがたい。

 ならば、実験に失敗した時点で〖空間転移〗で出れば良いんじゃないか?


 そんな事が頭を過ぎったのでプリンには何も言わずに協力をして貰う。

 もっとも、実験を開始すれば、プリンには分かる事なのだが…。


「とりあえず…プリン、今忙しい?」

「いえ、特に何もしていませんので…それに、何かしていたとしてもご主人様を優先するのは妻として当然の事ですわ。」

「そっか…なら、悪いんだけど協力をお願いするね。」

「はい♪」


 妻と言う部分に関しては、まだ結婚している訳ではないのだが、ある意味、結婚している様な物だし、わざわざ否定する必要もないから放置する。


「なら、プリン…こっちに来て、魔王化を頼む。」


 魔王化…プリンと融合する事によって人間ではなくスライムになる事が出来る技だ。

 まぁ、正確には技ではなく融合する事によって、プリンと混ざり合った結果なのだが…。

 とは言え、僕のお願いを聞いて、何をするのかすら聞かずに融合してくれるプリン…僕を信用してくれている証拠だ。


 そして、融合する事によって、僕達の記憶も混ざり合う…。


〔なるほど…そう言う事ですね…。

 でも、ご主人様…私だってまだなんですから…エッチな事は禁止ですよ?〕


 一瞬、何を言われたか分からなかったが、先ほどの一件を思い出し、慌てて否定する。


「い、いや…アレは見たくて見たんじゃなく…事故だ、事故!」


〔そんなに否定しなくても…同じ記憶を共有してるのだから判ってますよ♪〕


「ま、まぁ…ね…お陰でプリンが卵焼きを焦がしたのも分かるんだけどね。」


〔うぅ…みんなに、ご主人様には内緒にって口止めしたのに…。〕


「まぁ、それでもプリンが吸収したんだから食材は無駄にはならなかったって事で良いんじゃないか?」


〔でも、貴重な卵だったのに…。〕


 そう…元の世界では卵と言えば、近所のスーパーやドラッグストア、コンビニにですら、普通に売られている。

 だが、こっちの世界では大変貴重な物なのだ。

 それもそのはず…こっちの世界では流通と言う物があまり宜しくない。


 基本的に物を運ぶのは馬車である。

 流石に、元の世界みたいに車がある訳でもない…まぁ、僕に関しては当てはまらないが…。

 故に、長距離運ぶのに何時間も掛かってしまう…僕が作り出したゴーレム車で数時間の距離でも馬車であれば、数日は掛かる事もある。

 その事を考えれば流通が如何に難しいか分かると思う。

 そんな中、割れやすく腐りやすい卵とかは貴重な食材となるのだ。


 ならば、何故、卵が手に入ったかと言うと…メルトの町には鶏を飼っている人がいるのだ。

 とは言え、幾ら新鮮でも数が手に入らない。

 だったら、その卵が市場に出たとしても高価な物になるは仕方がないのだ。


 そんな訳で卵が3個で銀貨3枚…日本円で考えると卵1個で1万円か…どこの高級卵だよとツッコミを入れたくなる。

 そりゃ、プリンが焦がしたとなれば凹むのも分かると言う物だ。


 と、話が逸れている…なので、僕は早速プリンにお願いをする。


 もっとも、自分でも出来るのだが、この手の制御は、長い年月スライムとして生きてきたプリンの方が上手なのだ…と言うより、僕ではプリンの足下にも及ばない。


「んじゃ…プリン、頼んだ!」


 僕の呼び掛けと共に、すぐに分裂を行うプリン…やはり流石だ。


 プリンが作り出した分裂体は能力的には1%にも満たない、はっきり言ってしまえば雑魚だ。


 だけど、その中からは、ちゃんと僕の力を感じる事が出来る。

 他のスライムと違い、見れば必ず僕だと分かる。


 僕は、ダンジョンコアに触れて確認する。


「今、この部屋にはダンジョンマスター…僕は何人いる?」


【不思議な事に、ダンジョンマスターの反応は2つあります。】


「よっしゃ!まずは最初の難関突破だ!」


〔次は、出入り口から出る事が出来るか…ですね。〕


「そう言う事だな…。」


 僕は、指輪の力を使いダンジョンの入り口に手を伸ばす…。

 すると、やはり見えない壁に手が触れた…ダメなのか?と思ったら、ある時を境に少しずつダンジョンの外へと体が動いていき…時間は掛かった物の、何とかダンジョンから出る事が出来た。

 急に出る事が出来たのは、いったい何があったのだろう…そう思っていると、プリンが念話で話し掛けてきた。


〔ご主人様、分裂体に命令を出してダンジョンコアを操作して、ダンジョンマスターとしての権限を分裂体の方をメインに…ご主人様をサブマスターとして登録する様にさせました。〕


「な、なるほど…よく分からないけど、あの分裂体スライムがこのダンジョンの主となった訳だ…。」


〔いえ、あの子は命令を実行するだけの端末でしかありませんので、命令出来るご主人様がダンジョンの主です。〕


「そ、そうなんだ…でも、プリンも命令出来るから…プリンがダンジョンの主になったりして…。」


 僕は苦笑しながらそう言うと、プリンが慌てた様にそれを否定する。


〔そ、そんな事はしません!そもそも妻と言う物は夫を立てる物です…だから、ご主人様がダンジョンの主です!〕


 まったく…いつの時代の精神論だ…とは思う物の、ただの一般人である僕には何ともありがたい事だ。


 さて、これでダンジョンの外に出る事が出来た訳だが…後は、メルトの町のギルドマスターであるラオンさんと交渉だ。

 色々と不安がある物の、やらなくてはいけない事だと思うので頑張るしかない…。


 願わくば…ラオンさんがキレない事を祈っておこう…。

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