第217話 明日以降の予定

 スワン司教の言葉にプレスが反応する。この司教はこのような話題で冗談を言うような人物では決してない。このようなが真実へと迫る重要なきっかけになったことが幾度となくあることをプレスはよく知っている。


「おれ達には手元に殆ど情報がない。一つの可能性として考えた場合…。あくまで可能性だけど…、もしそれが根も葉もない噂話ではないとすると…、行方不明には何者かが介在している…?」


 真剣な表情となったプレスはそう呟く。


「でもプレスちゃん…」

「主殿…、それは…」


 マルコとティアがそう声を上げる。マルコは遥か以前からスワン司教の力をよく知っている。ティアも出会ったばかりとはスワン司教がどれほどの実力者であるかをよく理解していた。


「そう…、司教様に気付かれずにこの街でそんなことができるのだろうか…」


 そのように言葉を繋いだプレスはスワン司教に視線を向ける。


「私もこの街での動向の全てを把握しているわけではありません。ただ行方不明事件を起こすような邪悪な存在を感じたことはありませんでした。驚異の存在もプレストンとティア殿が訪れた今日まで感じたことがありませんでしたが…」


 それを聞いたプレスは何か思い当たることがあったのか俯き、そして頭を振った。


「どうしたのプレスちゃん?」


 マルコがそう声を掛ける。声を掛けられたプレスは俯いたままながら口を開く。


「いや…、そんなことを可能にする連中と縁があったな…、って思ったんだ…。だけどそれを今回の事件と結びつけるのはちょっと突飛すぎる…」


 そう自嘲的な笑みを浮かべて顔を上げたプレスであるが目の前に座っている一同の真剣な表情にやや驚く。


「それってミケちゃんとサラちゃんから聞いた黒い魔物達のことよね?私は会ったことはないけどクリーオゥちゃんっていう精霊の目を掻い潜ったっていう…」


 マルコのその言葉に今度はスワン司教が驚く反応を示す。スワン司教はリドカルの街に住む精霊であるクリーオゥのことをよく知っている。


「あのクリーオゥの目を掻い潜った魔物?プレストン!どういうことですか?」


 そう問われたプレスはエルニサエル公国や港湾国家カシーラスで遭遇した事のあらましを語って聞かせた。


「そんなことがこの大陸の裏で起きているとは…。そしてそれに遭遇して全てを阻止するところがプレストンらしいというかなんというか…」


「不思議な縁があるかもね…。でもあの連中とこの事件を結びつける情報は何もない。それにあの連中が絡んでいるとしたら行方不明事件として騒がれているこの状況は釈然としない…。ぜーんぶ憶測だからね!」


「だが主殿!奴らであれば不可能ではない。可能性の一つとして頭の片隅に残しておくことは問題ないと思うぞ」


「それはそうだけど…、それはきっと面倒なことになる。恐らく最悪の筋書きだね…。そうならないことを祈っているよ…」


 ティアの指摘にぐったりするプレス。


「プレスちゃんの最悪の憶測が当たった場合、連中が動き出すまで尻尾を掴むのは難しそうね…。国王あの子もそれを考慮してあたしを派遣したのかもね…」


 マルコの言葉に納得顔をするプレスとスワン司教。


国王あいつは相変わらずだな…。いい奴で優秀だ…」

「どうですプレストン?いい国でしょ?」

「ええ。とてもよく知っています…」


 そんな話に続いていくつかの話をした後、一同は明日以降の予定を決定した。


「とりあえずあたしは国王あの子の命令書を持っているから明日騎士団と合流するわ。事故と事件その両面から調査を進めるわね。事件の可能性を軽んじないように注意するわ」


「私はこの施設の結界を調整しておきましょう。強度だけでなく破ろうとした者に何か目印でもつけるようにしましょうか…」


 マルコとスワン司教の言葉にプレスも続く。


「街の警戒は強まっているから昼間に大胆な行動は取れないだろう…。おれ達は昼間の警備は騎士団と冒険者に任せて、夜の監視に遊撃的にでるとしようか…。ティア!それでいいかな?」


「主殿の望むままに!」


 互いに頷く二人。それを見ていたスワン司教が思いついたかのようにポンと両手を合わせる。


「でしたらプレストン!ティア殿!明日の昼間にお願いしたいことがあります!」


 にこやかにそう言われたプレスとティアは思わず顔を見合わせるのであった。

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