宰相の手記(間狂言の居語り的な閑話→第四章のあらすじ的なものです)

第168話 手記 前半部

 あれは天候に恵まれた夏の初めの頃…。恒例となっている式典の準備と出席のため私は首都ヴァテントゥールから我が家の本邸があるリドカルへと戻っていた。


 ある日、視察に出ていたはずの娘マリアが予定を変更し急遽リドカルに戻ってきたのである。

 話を聞いて驚いた…。大河オーティスを航行中にリヴァイアサンに襲われたという。リヴァイアサンは本来海の魔物であるはずなのにそれが大河オーティスに現れたと言う異常事態もさることながらその後の報告は私を心底驚愕させた。


 なんと二人の冒険者がリヴァイアサンを退けたという。


 リンドバル号の船長であるグレイスもその報告が事実であると証言した。彼女は信頼のおける人物である。なので私は即座に行動に移すことにした。


 何しろリヴァイアサンを退けるような冒険者である。そんなことができる冒険者が本当に存在するならば必ず味方に引き入れなければならない。できることならこの国に協力的な冒険者としてずっと滞在してほしいものだ。


 貴族の中には冒険者をならず者と言うものも多いが私はそうは思わない。フロイツェンのような旧友がいたことも大きいが、冒険者の行動が与える国への影響がとても重要なのだ。

 彼らがダンジョンから持ち帰る豊富な資源や貴重な物品は人々の生活を潤し、経済の活性化に重要な意味を持つ。

 また常に魔物の危険にさらされている我々にとって護衛依頼などによる物流への貢献は計り知れないほど大きい。

 強力な冒険者は国の財産になり得るのだ。


 その後の決闘の報告を受けたが私は冒険者を不問に付すことを家の者に厳命した。これはむしろ我が家の名誉を守るような行動をとってくれた冒険者に感謝すべき件と判断したからだ。


 そうしてリドカルの冒険者ギルドへ使者を送り、マリアから聞いたプレストン、ティアと言う二人の冒険者がギルドを訪れた際、我が屋敷へと来るよう依頼する算段を取り付けた。


 しかし残念なことに私がリドカルにいる間にはその冒険者が私の屋敷を訪れることはなかった。


 首都ヴァテントゥールへと戻り日々宰相としての職務に忙殺されながら夏が終わった頃、滅多にない休日の朝、娘のマリアから一報が届いた。なんと件の冒険者二人がリドカルの我が屋敷を訪れたというのだ。マリアの護衛という依頼の体を作りここヴァテントゥールに向かうという。久しくなかった嬉しい報告に素晴らしい休日になると穏やかな心持ちでいたのだがそんな良い気分は次の一報で粉々に砕けちることになる。


 書状が届いたのだ。正確には王城に届けられたが対応できるものがなく私の屋敷に急ぎ届けられたとのことだった。封蝋を見て驚いた…いや驚愕したと言ってよい。それはレーヴェ神国国王であるハインリッヒ殿からのものであった。


 その内容はなんとレーヴェ神国聖印騎士団の分隊長二名が人を探すためこのヴァテントゥールを訪れると言うものだった。


 今でも私はあの時の血の気が引く感覚を覚えている。冗談ではなかった。私もかつての戦乱の折、数人に会ったことがあるがあの騎士団の分隊長は掛け値なしの怪物である。彼らの人格などに問題があるわけではないが、不興を買った場合には何が起こるかわからない。


 私は閣僚を集める指示を出し緊急会議を開くべく王城へと向かった。


 会議は紛糾したが半ば私が強権を発動し私の一存を通させてもらい陛下にも了承を頂いた。


「この悪人が…。デカい借りになると思えよ!」


 旧友の言葉は今も私の耳に残る。私が考え出した案は全てを冒険者に任せるというものであった。無茶を押し付けたことはすまないと思ったがあの時はこれしか思いつかなかった。現在の騎士団は貴族出身の若者中心に構成されており、かつての戦乱の時代を知る者が少ない。レーヴェ神国聖印騎士団の二人の分隊長が街を訪れるということの重要性を理解できるとは思えなかったのだ。


 そして到着されたのがレーヴェ神国聖印騎士団の二番隊隊長であるミケランジェロ=ハーティア殿と五番隊隊長であるサラ=スターシーカー殿である。人を探しているとのことだったが、この国の緊急事態にのみ使用される魔導通信による連絡がが入ったため話は一時中断されることとなった。


 魔導通信による連絡はヴァテントゥールへ向かっている筈の我が娘マリアに同行していた我が家の騎士であるアーリアからのものだった。聞けば最近発生した小規模ダンジョンの一つに異常が起こり、魔物が凶暴化した上にギガントミノタウロスやハイドラといったS級冒険者パーティであっても対応が困難な魔物までもが発生したとのことだった。


 さらにこの事態はダンジョンコアに茨状の魔物が絡みついたことが原因と推察され、これが放置された場合、危険な魔物がダンジョンの外に溢れることが予想され、この事態が人為的に起こされた可能性があるということも報告された。


 最近発生した小規模ダンジョンはあと三つある。私は他の三箇所のダンジョンに異常がないかの確認が必要であると判断し、ギルドマスターのフロイツェンと協力して事態に対処することを決めた。


 そして聖印騎士団の二人も協力してくれることになり、彼らとS級パーティがそれぞれ探索に赴くこととなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る