第162話 東の空から明るくなる
「ふぅ。こんなものか…」
そう呟きながらドラゴンとなっているティアの全身が輝き人型へと変化する。太陽が姿を見せ、東の空から明るくなる。
「おっと…、これはいけない…」
ドラゴンの姿を成した際、衣服を失っていた。ドラゴンが裸だったので、人の姿となったティアも当然全裸である。幸い周囲に人の目は無いが、全てが朝の光に照らされる。磨き上げられたかのような白い肌と金色に輝く長髪と瞳、そして湛える美貌とその全身に纏う造形の美しさは、目の当たりにした全ての者を性の差など関係なく虜にできる程の魅力に溢れていた。
ティアの身体が再び輝く。
「きゅっ!」
そこには可愛らしい子竜の姿があった。
「しかし…。ローブを失ってしまった…。せっかく主殿から頂いたローブであったのに…」
しょんぼりと項垂れる子竜。
「ティア!大丈夫だった?」
そんな時、背後にあったダンジョンの入り口から声がかかる。
「主殿!きゅきゅきゅ!」
ティアは声の聞こえた方へと振り返り、嬉しそうにパタパタと飛んで行く。入り口にはプレスが立っていた。肩にはエルフを一人担いでいる。
「無事でよかったよ。…ん?君の姿とこの魔力の感じ…。あのドラゴンの姿になった?」
「きゅきゅきゅきゅ!」
そう言ってプレスの側でパタパタと飛び続ける。
「なるほどね…。怒ってくれてありがとう」
そう言って子竜の頭を撫でるプレス。ティアはとても嬉しそうだ。
「えっと…、替えのローブと着替えを…。ちょっと待って…。ほい!」
そう言うとプレスはティアの予備の服と装備をマジックボックスから取り出した。
「主殿…。装備を失ってしまい申し訳なかった…」
項垂れる子竜の背をポンポンと叩く。
「大丈夫!気にしないで。それよりもドラゴンの姿にまでなって怒ってくれたことが嬉しいよ!」
「そうか…。そう言ってくれると嬉しいものだ…。ふふふふふ…」
ティアは嬉しそうに人型の姿へ変化する。プレスは回れ右をした。
「別に好きに見てもらって構わないのだが…。まぁ…、よいか…。それよりも主殿?その肩に担いでいるのがダンジョンに残っていたというS級冒険者か?」
「ああ、カティアさんだよ」
「怪我は主殿が回復させたようだが、泡を吹いて気を失っているのは何故だ?」
服を着ながらのティアが放つ鋭い指摘に額に浮いた変な汗を拭うプレス。
「い、いやぁ…。先に見つけちゃったから担いで最深部まで駆け抜けて…、コアを侵食していた魔物も斃したけど…。その早い段階で気絶しちゃったみたい…」
「主殿…。やりすぎたな…?」
「すいませんでした…」
何も反論できないプレスである。
そんなプレスではあるが、その後は新しい服と装備を纏ったティアを伴い重傷を負ったS級冒険者パーティが担ぎ込まれたギルドへカティアを送り届ける。
ギルドでは既にヴァテントゥールから派遣された何人かの回復魔法を使える冒険者達が到着しており慌ただしく作業を始めていた。カティアとS級冒険者パーティ『翡翠の矢』のメンバーは再会できたことに涙を流して喜んだ。そんなギルドにカティアを任せてプレスとティアはヴァテントゥールへ戻ることを決める。
依頼の達成はこのギルドから魔導通信でヴァテントゥールの冒険者ギルドへ知らせてくれるとのことだった。『先ほど夜空に上がった金色の柱を見たか?』との問いには知らないとの一点張りで切り抜けた。
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