第160話 S級冒険者を探せ!

「さて…、洞窟型のダンジョンか…。カティアさんはどこだ?」


 クレティアス教の司祭の相手をティアに任せ、ヴァテントゥールの西にある小規模ダンジョンへと飛び込んだプレスは周囲の気配を窺う。思いのほか第一層は広いようだ。


 ギルドに届いた報告によれば彼女は第一層で魔物を別の通路に誘導したという。


 プレスの索敵能力は優秀だ。そしてカティアはエルフである。人族よりも魔力の多いエルフは見つけやすいと思われた。しかしプレスは周囲にエルフの気配を感じることが出来ない。


「隠蔽の魔法…?だとしたらかなり上手いね…」


 プレスはダンジョンの奥へ足を踏み出す。既に空間には魔力の霧が深く立ち込めており視界は極めて悪い。魔力の霧を割って飛びかかってくるゴブリンたちを斬り伏せながらプレスは急ぎながらも慎重に周囲を探索する。


「カティアさん!!おれは冒険者のプレストン!ギルドから依頼を受けてあなたを探している!いたら返事をしてくれないか!!」


 ある程度進んだところでそう叫んでみるが返事はなかった。


「っと!」


 そうしながらも突っ込んできたボアを躱しざま右前足を斬り飛ばす。やはり魔物の数はかなり多い。


「…どうしよう…?下の層にいるとか…?いや、彼らは第一層の戦いで苦戦し撤退した。魔物がさらに強力になる下層へ降りるとは思えない…」


 プレスは飛びかかってくる魔物を斬り払い、距離をとっている魔物に多数の火矢フレイムアローを打ち込みながら移動を続ける。


「あれ…?」


 そんな移動中にプレスは違和感を覚えた。


「この通路ってさっきもなかったっけ?」


 思わず首を傾げてしまう。視界は依然として悪いがプレスは周囲の魔力を感じ取りダンジョンの構造を正確に記憶していた。この記憶に関しては自信のあるプレス。


 洞窟型のダンジョンにおいて全く同じ構造の通路と言うものは基本的に存在しない。その違和感に洞窟の壁を調べる。すると特殊な魔力を感知することができた。


「これは…」


 プレスは集中してその魔力の解析を試みる。非常に複雑な魔法が行使されたようだ。感心するプレス。


「単なる隠蔽じゃない…。隠蔽の術式を取り入れた土属性の魔法で洞窟の壁を偽装…。結界を張った上で、空間魔法で作った空間の中に自分を放り込んだ?さすがS級冒険者のエルフ…」


 空間魔法はプレスやティアも使えない。使用できる者が極めて限られる魔法である。魔力で空間を構築し荷物等を持ち運びできるようにする魔法ではあるが、空間を安定させることは極めて難しく人を入れることができるほどの空間を構築するとなると困難を極めた。バックなどに付与してマジックボックスを作成することができる魔法とも言われているが成功例はまだ知られていなかった。ちなみにプレスが持っているマジックボックスはとあるダンジョンのドロップ品である。


「だけどこれって自分から出てくることができないんじゃ…?さらにこちらのことを感知することも不可能…。本当にギリギリで身の安全だけを考えたのか…」


 そう言いながらプレスは背中の木箱を下ろす。


「空間魔法で構築した先への干渉ね…。やってみるか!」


 プレスは懐から紙を取り出し右手の人差し指と中指の腹を噛み、流れる血で魔法陣を描く。完成した魔法陣を箱の側面に押し当て唱えた。


天地疾走オーバードライブ解呪アンロック!」


 プレスがそう唱え木箱の上方が開き金色に光り輝く長剣が飛び出す。柄を握ると本来は夜のような漆黒を湛えるプレスの瞳が金色に輝いた。


「干渉できたとして…、をバッサリやるのは本当にまずい…」


 金色の長剣を構え慎重に振るう。すると偽装された壁が割れ結界と共にガラスのように砕け散り、空間に切れ目が発生する。


「できたっぽい!よっと!」


 躊躇なく切れ目に手を突っ込んで目当てのを引っ張り出す。


「上手くいった…」


 そう呟いてプレスはついでに周囲の魔物へ斬撃を飛ばし一掃した。


 そうして胸元から一枚の紙を取り出す。先ほどと同様の方法で魔法陣を書き、その手に持っていた剣を木箱に納め、蓋を閉じ、側面に紙を押し付け唱えた。


天地創造オーバーライド封呪ロック!」


 途端に光が消え、斬り裂かれた空間も元に戻る。プレスの傍にはボロボロで気を失っている一人のエルフが残された。


「ちょっと苦手だけど回復ヒール!」


 プレスが唱えるとエルフの傷口が塞がってゆく。


「ん…、あ、あれ?こ、ここは?」


 早速、意識を取り戻したようだ。


「おれは冒険者のプレストン!S級冒険者パーティ『翡翠の矢』でリーダーをしているカティアさん?」


 プレスの言葉に無言で頷く。まだ状況を理解できていないのかもしれない。


「ギルドから依頼を受けてあなたを探していた。無茶をしたね。あ、まだ動かないで。回復ヒールをかけたけど血が元に戻ったわけじゃない」


「あなたが助けてくれたの?あ、ありがとう…。でもどうやって?私は二度と出れないことを覚悟していた…。それに一人…?」


 やはり無茶をしたらしい。


「ま、冒険者の奥の手ってやつさ…。それよりも…ヨイショっと!」


「きゃっ!何をするの!?」


 話をはぐらかせたプレスがカティアを肩に担ぐ。


「悪いけど先を急ぐ…。ダンジョンコアの場所まで付き合ってもらうね!」


「え!?単独ソロで…?あの女達じゃあるまい…きゃああああああああ!!」


 プレスはカティアが話し終えるのを待たずにかなりの速度で移動を開始する。ダンジョン内にカティアの悲鳴が響き渡るのであった。

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