第155話 依頼達成

 漆黒の鞭による高速の連撃を苦も無く捌きながら、その場で悩む猫族ワーキャット。壁際に佇むガルロイドは見てはいけないものを見ているような気分になる。


「そう言えば…。この黒いやつどうやってあたいを敵として認識してるんだ??…うん?」


 ミケは攻撃を捌きながらも違和感を得る。時折、触手が自分のいない場所を攻撃している。


「なんでそんな場所を…?……あ!」


 何かに気付いたのかミケは一瞬にして三メトル程コアから距離を取る。ガルロイドには瞬間移動したかのように見えた。移動したミケの手には虫型の魔物が握られていた。振動を感知して近づいてきた類の小型の魔物だろう。


「えい!」


 そう言って手にした魔物を触手の届くギリギリのところに投げつける。虫型の魔物が触手の攻撃範囲に入ったとミケが感じた瞬間に漆黒の触手が虫型の魔物を粉微塵に吹き飛ばした。それを見届けながらミケは触手の攻撃範囲外に距離を取る。


「そう言うことか…。ならばこれを…。ガルロイドさん!距離を取って待機ね!!」


 振り向かずにガルロイドに指示を飛ばしたミケはほんの数瞬目を閉じた。そして唱える。


炎神化セルフバーニング!」


 言葉と共にミケの躰から深紅の魔力が沸き上がり、彼女の全身を取り囲むように魔力が形を造った…と同時にミケの全身が金色の炎に包まれる。そしてその姿は距離を取っていたガルロイドからも直視できないほどの輝きを放ち始めた。ダンジョンコアを凌駕する強烈な魔力の反応である。


 その状態でミケはダンジョンコアとの距離を詰める。するとダンジョンコアを侵食している漆黒の膜状をした物体がコアから剥がれミケへと躍りかかった。


「そうなると思った…。よっと!」


 燃え上がる両手でがっちりと漆黒の物体を捉えたミケの躰へ無数の触手が襲い掛かかるが炎を纏うミケは意に介さない。


「こいつは魔物というより、魔道具だな…。コアを特定して浸食していたわけじゃない。魔力があって動くものを攻撃の標的にして、その周囲の最も魔力が強い所へ取り付いて浸食するって感じだな」


 そう呟くとミケの全身が輝きを増す。


「ギギギギギギギギ!!!」


 金色の炎に包まれ断末魔のような音が漆黒の物体から上がる。


「あたいが来たのが運の尽きってやつだ!」


 金色の炎に包まれて漆黒の物体は消滅する。炎神化セルフバーニングを解いたミケはガルロイドの方を向き直り親指を立てる。


「依頼達成!ってね?」


 誰に話しても信じてくれないであろう光景を目撃したガルロイドは引き攣った笑みを返すのだった。


「サラもきっと斃したころだなー。とっとと戻ろう!」


 ミケとガルロイドは地上を目指した。




 同じ頃…、北西にあるもう一つの小規模ダンジョンにおける最深部。


 光り輝く鎖が茨の触手を全て絡めとる。光の鎖はそれだけに留まらず漆黒の物体全てを光の鎖でがんじがらめに縛り上げダンジョンコアから引きはがした。


「これで大丈夫ですわね」


 終始にこやかな笑みを浮かべながらサラが言う。


「ギギギギギギギギ!!!」


 断末魔のような音が漆黒の茨から上がる。


「ご抵抗は無駄です」


 サラがゆったりと杖を振るう。漆黒の物体が全て砕かれ霧散した。


「さあ戻りましょう。ミケさんも討伐を終えている頃ですしね」


 そう呟いたサラは地上を目指すのだった。

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