第141話 マリアとの直契
副隊長のアーリア=ロクサーヌを含めた五名の騎士がダンジョンに入って二刻程経過した頃…。
「!?」
何かを感じ取ったのかプレスは入り口を覗き込む。
「これは!?」
プレスが表情を変える。
「ティア…」
プレスが沈んだ声を掛けるとティアが壁に手を触れる。ティアの手がダンジョンからの影響を受けうっすらと紫色の魔力を帯びる。
「ふむ…。主殿…。これはよくない兆候だ」
「やっぱりか…。ちょっとマリアさんに話してくる」
そう言ってプレスは準備中の騎士達を見守るマリアの側へと急ぐ。
「マリアさん!」
プレスから声を掛けられてマリアが振り向く。
「いかがいたしました?プレス様?」
「ダンジョンに潜った騎士達を撤退させてほしい。そして近くのギルドから高位の冒険者を指名して探索の依頼出すべきだ!」
プレスの言葉に残っていた騎士達は顔を顰める。
「理由をお聞きしても?」
「ダンジョンに異常が発生したみたいだ」
「異常ですか?」
「ああ。魔力の流れがおかしい!」
その言葉を聞いて騎士の一人が言い返す。
「バカな!我等は事前に冒険者ギルドへダンジョンについて確認したがそのような報告は受けていないぞ?」
「たった今、異常が発生したんだ!騎士達に危険が及ぶかもしれない…、っと!みんな!伏せて!!」
プレスがそう叫びマリアを抱えるように地面に伏せる。その瞬間、大気が震えダンジョンから魔力が溢れ出した。そして夥しい魔力の閃光がダンジョンから放たれる。
「「う…」」
閃光をまともに受けた二人の騎士がその場に倒れる。
「こ、これは…?な、何が起こったのですか?」
驚いた様子でマリアが尋ねる。
「魔力がダンジョンから溢れたんだ。彼らなら大丈夫。大きな魔力を当てられて一時的に意識を失っただけさ…。でもこれはちょっとマズいかもね…」
「どういうことでしょうか?」
「原因は分からないけどダンジョン内に過剰な魔力が充満してしまったんだ。可視化できるってことはかなりの魔力量だよ…。こうなるとダンジョン内の魔物が魔力に当てられて凶暴化やおかしな進化をしている可能性がある…」
「アーリアには脱出用の魔道具を持たせてありますが…」
「あれは魔力が安定した場所じゃないと使えないものがほとんどだ…。この状況では難しいかもね…」
そう言ってプレスはダンジョンの入り口を見る。先ほどから溢れ出す魔力が寄せては返す波のように一定していない。マリアはどうすればよいかの判断がつかないようだ。
「マリアさん!護衛とは別に直契の依頼を出さないか?時間的な猶予は少ない。依頼内容は『アーリア達騎士五人を安全にダンジョンから生還させる』でどうかな?」
「可能ですか?」
「まだ彼らが生きていればね…」
そう言ったプレスの目をマリアは真正面から見据える。
「分かりました。プレス様にアーリア達の救出を依頼させて頂きます。報酬は成果を見て決定させて頂きますがよろしいでしょうか?」
そう言いながらマリアはプレスにダンジョンの見取り図を手渡す。毅然としたマリアの態度をプレスは気に入った。
「ああ。それで構わない。ティア!マリアさん達の護衛を頼む。これが人為的な行為ならここが安全という保証もないからね…」
「主殿。心得た!何も問題ない!」
「頼む!」
そう言ったプレスは木箱を背負い腰に長剣を差して可視化できる程の強大な魔力が渦巻くダンジョンへと飛び込むのだった。
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