第87話 依頼3

「そんな感じもしていたけどガーランド帝国もこの件に絡んでいると?」


 問いかけるプレス。


「上手く事が運ばなかった場合は関与を否定すると思うが、我々はそう睨んでいる。前提から話そう。エルニサエル公国は亜人への差別を明確に禁じているためロンドルギアの街のこちら側には多くの亜人が暮らしている。しかしこの街は大河オーティスを挟んでガーランド帝国とエルニサエル公国の共同統治で治められている。ここまでは問題ないか?」


「ああ」


「ロンドルギアの街は流通の街だ。多くの亜人が商業ギルドに所属し流通関係の職についている。そして集まる亜人の冒険者にとって主要な依頼はその流通業者の護衛だ。彼等にとっての状況はかなり悪い。どう考えても商業ギルドと冒険者ギルドがこれまで通りの対応をしてくれるとは思えないからだ」


「それも分かる…」


「この状況下で亜人たちが頼るのは亜人協会だ。近く亜人協会、商業ギルド、冒険者ギルドの各幹部と領主による話し合いの場が設けられるだろう…。亜人協会は知っているか?」


「ギルドの受付嬢から簡単に説明されたよ。クレティアス教と折り合いが悪いようだ…」


「亜人の互助組織のようなものだからな。教団と仲良くできる訳がない。平和的に話し合いが行われるなら問題ないのだが我々が危惧しているのは例えば亜人達が暴動を起こした場合だ。いや…暴動を煽られた場合と言った方が正しいな…。もしそんなことが起こった場合、最も利益を得る者と言えば…」


 プレスはセルジュの説明を理解する。


「なるほどね…」


「分かってくれるか?そう帝国なのだよ。現在のこの街は亜人にとって住みにくい街となりつつある。しかしこの状況は不本意ではあるが公国にとっての合法な手続きで作られた状況なのだ。帝国側から見れば、公国がということになる。亜人達がこれを理不尽な統治だとして暴動などを起こした場合、エルニサエル公国は失政を指摘するまたとない機会をガーランド帝国に与えることになるだろう。最悪、ガーランド帝国が『ロンドルギアの街は帝国が単独で統治すべき』と言い出した時に反論する材料を失うことになる可能性がある…」


 ガーランド帝国がロンドルギア全てを統治した場合、流通の全権を握ることによって大きな利益を得ることになる。それを目論んだ帝国の誰かが教団と示し合わせてこの事態を引き起こしたというのは十分考えられることだった。プレスは顔をしかめる。


「相変わらずやることが陰険だ…。それだとロンドルギアの公国側の領主はあっちの協力者と言うことになるのかな?」


「そうだろうな…。恐らくその後の立場を保証されたか、教団のしかるべき役職でも提示されたかしたのだろう。でも私は使い潰されるだけの存在と思っているがね…」


「多分当たっているだろうな…。ということはおれ達への依頼である『この街の発火点を除去すること』というのは…」


「今後、亜人達は亜人協会へ助けを求める。そこが最後の砦となるからだ。教団はそんな亜人協会へ何かを仕掛けてくると我々は予想した。結果として公国による統治の失策とみなせてしまうこの街を混乱に陥れる何かをだ。君にはそれを阻止してもらいたい。亜人協会の幹部へは既に話を付けてある。その上で凄腕の冒険者を護衛として派遣すると伝えた」


 プレスは頷く。


「それがおれ達ね…。期間は?」


「十五日間だ。既に冒険者ギルドの密偵がこのことを知らせるためにハプスクラインへと発った。大公にこのことを上訴しこの事態を改善する大公令と騎士団を連れてくる。恐らく十五日はかかるだろう」


「密偵が道中で襲われる心配は?それと大公令を持ってくることで解決となるのかい?」


「密偵には相当な者を選んでいるので問題ない。そして現在の暫定的な両ギルドのマスターの配置はあくまで各ギルドと領主の内々の取り決めに過ぎない。大公の判断はそれを大きく上回るものだ。それまでに何もなければ全てを元に戻せるだろう。だがこのことはおそらく教団も掴んでいる。その前に何かをしてくるはずだ」


「なるほど…。懸念はさっき言ってた話し合いかな…?」


「ああ、おそらく騎士団の到着前に四者の話し合いが行われる。亜人協会としても助けを求められているのに何もしないわけにもいかないからな。亜人協会は街に必要な組織なのだ。ここで何もしないことで権威を落とすようなことはさせたくない」


 プレスは軽く天井を仰ぎ呟いた。


「十五日間を亀のように黙って過ごしても恐らく事態は解決するだろうね。しかしそれでは亜人協会の権威が落ちるしそもそも亜人協会もそんな弱腰の対応は認めないかもしれないしね…。冒険者ギルドとしても亜人協会に恩を売るにはいい機会ってところかな…」


 そんなプレスにセルジュが頭を下げた。


「どうかこの依頼を受けて欲しい!」

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