第86話 依頼2

 プレスはロンドルギアの街で冒険者ギルドのサブマスターをしているセルジュからの『この街の発火点を除去すること』という依頼について説明を求めた。


「先ずこの街の現状だが、暫定的であっても冒険者ギルドと商業ギルドのトップをクレティアス教の司祭が務めることになったのは君も知っていると思う」


「ああ。さっき見たよ…」


「私には領主周辺に密偵がおり情報は殆ど同時に得ることができるのだがその情報を得たときには驚いた。この街の両ギルドには多数の亜人が所属している。通常ならクレティアス教の司祭に運営を任せるなどということが罷り通る筈はないのだ」


 その話にはプレスも同意する。クレティアス教の教義では、人族のみを至高の存在し、神は人族のみをその窮地から救うとされ、亜人は不浄の存在と忌避され差別の対象となる。とてもプレスには同意しかねる内容の教義だが大陸の西側では人気があった。


「このような決断を下すほど領主がクレティアス教を信奉していることについては見抜けなかった我々にも落ち度がある。一年前の取り決め改訂時には私もその場にいた。領主からの提案で特に問題ないだろうとして改訂に同意したが…。まさかこのような結果を招くとはな…」


 ということは一年以上前から計画されたものか…。そう思ったプレスだが口には出さずセルジュの言葉を聞くことにする。


「今後のことだが、両ギルドのトップに暫定的であってもクレティアス教の司祭が就いた情報は瞬く間に街中に広がるだろう」


「その後、どのような事態が起こるとあなたは考えているのかな?」


「その問いに答える前にきっかけとなった事件について説明させてもらう。事実だけを言うなら冒険者ギルドマスターは商業ギルドのマスターを殺してはいない」


 その言葉はプレスにとって意外なものではなかった。


「ま、そんなところだろうね…。冒険者ギルドと商業ギルドがいがみ合ってもいいことなんて何もないからね…。でも事実ってことは現場を見ていたのかな?」


「うむ。会談には内密に私も同席した。不測の事態に備えたギルドマスターの次善の策だよ。この街は陰謀関係の対応は多くてね…。そして会合が終わり商業ギルドのマスターと我々が分かれた直後に彼は襲われた。不穏な気配を感じた我々は直行したが遅かった…」


 セルジュのその言葉には後悔が滲んでいた。これもプレスは嘘ではないと感じている。


「我々はその後、最悪の事態を考え今後の対応策を練った。そしてギルドマスターと別行動をとって今ここにいるというわけだ」


「ではあなたはギルドマスターの行方を知っている?」


「その通り。しかしそれを君に明かすことはしない。彼は命を狙われている。分かってくれ…情報を持つものは少ないほうがいいのだ。ただしその情報が君に依頼する内容に殆ど影響しないことは誓おう」


 プレスはそれで構わなかった。恐らく彼等には彼等の目指すものがあって動いているのだろう。プレスとティアに影響がなければ問題ではない。


「分かった…。それで構わない。そして今後起きる内容とおれへの依頼の説明を続けてくれるかな?」


「うむ。では今後の起きることについてだが…。最悪の事態となった場合、ロンドルギアは完全にガーランド帝国の支配下になるだろう」


 説明を促したプレスにそうセルジュは答えたのだった。

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