第77話 美味い料理
「これは…」
「ほお…」
二人の男女が圧倒される…。一人はC級冒険者のプレストンことプレス。もう一人はプレスの従魔となり今は人の姿をしているティアだ。
風呂から上がりさっぱりとした二人に食堂で待っていたのは見事なまでの料理であった。
パイ生地で包み焼き上げられたパテ、豚の耳、ほほ、頭肉と言った部位を材料のゼラチン質を利用して固めたテリーヌ、ザリガニのソースをかけたふわふわの魚のすり身といった皿は濃厚な味を湛え赤白どちらの
「このパテは美味い。そして手間がかかっている…。それとパイ生地とパテの隙間に入っているのは赤
プレスの言葉に給仕をしていたギゼルが嬉しそうに語りかける。
「お客さん!通だね。凄腕の冒険者と見たけど、どうやら
「確か…。海を渡った先、西の大陸から伝わった料理って聞いたことがあるけど…」
「流石だ。その料理の名はパテ・アン・クルート。肉のパテはこの大陸でも広く知られた料理法だが元々はこうやってパイ生地で包んで焼き上げた物なのさ。今ではこんな仕事をする料理人は殆どいない。料理自体は変化するものだからそのことに文句を言うつもりはないが、こういった料理があってもいいだろう?」
ギゼルの言葉に激しく同意するプレス。
「亭主殿!こちらの豚も美味いぞ!豚の頭周辺の部位とそのゼラチン質が見事な食感を演出している。それにとてもバランスが取れた味だ。ソースも素晴らしい!」
「姉さんの方もお目が高いね!それの料理名はフロマージュ・ド・テット。直訳すると『頭のチーズ』って言うんだ。香味野菜と白
ティアもギゼルの言葉に同意を示す。
「「そしてこのすり身が美味すぎる!!」」
声をそろえて料理を称えるプレスとティア。ギゼルも二人に好感を持ったらしい。
「いやーそこまで褒められると嬉しいね。その料理はクネルっていうんだ。ムースとはちょっと違う料理法で魚のすり身が美味く食べれるって寸法だな」
「確かにおれの知っているムースとは全然違う…。もっと軽いけど濃厚で美味い…」
「兄さんの指摘は当たってる!ムースはすり身とクリームで作るがこれはパナードっていうつなぎと油脂で作るんだ。これは牛の腎臓周辺からとるケンネ油を使った本格派ってやつだぜ!」
「最高だよ!」
「うむ。スバラシイ!」
料理を褒められギゼルは心から嬉しそうに笑みを浮かべる。
「これはギゼルさんが作ったの?」
「おうよ!俺は料理が本職なんだ!」
「料理人?確かに宿屋の主人には見えなかったけど…?聞いてもいいかな?なんで宿屋を?」
プレスの問いにギゼルが答える。
「もともと俺は料理人として各地を渡り歩いていたんだ。専門は兄さんが指摘した通り西大陸の料理。南の沿岸の都市国家や帝国の街々を周りながら腕を磨いていたんだけど大陸の東へ行きたくなってね…。だけどそこまでの金は無かった。旅の資金を集める目的で安かったここを買い取って宿兼料理屋をやって旅の資金を稼いでいるのさ。料理屋だけよりも稼げるからな」
「大陸の東?」
「兄さんも冒険者なら知っているだろう?レーヴェ神国さ。あそこなら思う存分料理が作れると思ってね。だけどレーヴェ神国は遠い。冒険者の護衛を雇いながらの旅は金が掛かるからね」
「なるほど…」
納得するプレス。レーヴェ神国はこの大陸の東に位置している。エルニサエル公国の東に広がる大森林のさらに東…。大森林の東に隣接するこの大陸の三大大河の一つである大河ミネルバを渡り、そこに広がる小国家群とよばれる広大な地域のさらに東にある海に面した小国である。レーヴェ神国は一切の種族的差別もなく信仰も自由であり、穏やかな四季と良質のダンジョンから出る豊富な資源を持つ非常に豊かで安定した国として知られていた。
しかしレーヴェ神国は遠い。プレスのような冒険者は旅において自分の身は自分で守ることができる。しかし、ギゼルのような料理人や商人が遠方へと移動する場合、冒険者に護衛の依頼を出すことが一般的であった。人柄、実力ともにある程度の冒険者を確保するためには結構な金額が必要なのである。
「叶うといいね!その目標!」
「我も応援するのだ!」
プレスとティアの言葉を受けてギゼルが笑う。
「ありがとな!」
その笑顔を見ながらプレスが思いついたようにティアに問う。
「ティア!明日の朝食はもちろんここだけど、昼飯もここにしない?研修が終ってからここで昼飯を食べよう!」
「主殿!素晴らしい判断だ!」
ティアの言葉を受けてギゼルに昼食をお願いすると二つ返事で応えてくれた。
「ちょうどいい
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