第24話 旅立ち とある一人の冒険者

「それでは本日首都へと発たれるのですね?」

「ああ。冒険者の階級には興味がないけど報酬は貰おうと思ってね」


 いつものギルドカウンターでプレスと受付嬢が会話している。


 先のダークリッチ討伐から十日間ほどが経過していた。プレスは陽動作戦に参加してくれた冒険者達に報酬の均等分配を提案した。流石に冒険者達も遠慮したのだが、これ以上注目を集めたくないという願いをプレスが押し通して全員でダークリッチを討伐したという形で正式な報告がなされることになった。


 強大な魔物が襲来したにも関わらず被害をゼロに抑えたということもあり住民は冒険者達を英雄として讃えた。特にA級冒険者であるフレイアのパーティやアーバンが目を引く存在となりC級冒険者のプレスに注目するものは誰もいなかった。


 討伐報酬の王冠は高値で取引されることになり冒険者一人当たり金貨五十枚が渡されることとなった。持ち家がある家庭が浪費をしないのであれば二年間は食べていける金額である。

 また他の冒険者たちは変種のワイバーン討伐の報酬を受け取ることが出来たのに対し、プレスは依頼が出されていなかったためドラゴンゾンビ討伐について報酬を受け取ることが出来なかったが本人は気にも留めていなかった。プレスの手元にはドラゴンの巨大な魔石が残された。


 ダークリッチ、変種のワイバーン、グレイトドラゴンのドラゴンゾンビの出現という未曽有の厄災が降りかかったカーマインの街とそれを統べるエルニサエル公国であったがここに事態の終焉を見たのである。


 プレスは討伐の翌日こそ宿泊している黒猫亭でぐったりしていたが、二日後にはギルドに顔を出し薬草の採取の依頼を受けていた。

 真の功績を知っているギルドマスターや職員からは昇級の話も出たがプレスはそれを断った。この世界の冒険者の昇級は『実績』と『本人の申請』が揃ったときに行われる。プレスが申請をしない以上、ギルドはどうすることもできないのであった。


 そんなこんなで数日過ごす内、プレスはギルドから連絡を受ける。この街に来る途中でエリー達に遭遇したことで完了できた『盗賊団黒い狼の討伐と国宝破邪の首飾りの奪還』の報酬についての連絡であった。エリーはその後寄宿舎付きの学園に通っていることを聞き安堵したプレスであるがその後、顔を顰めることになった。


 大公からは『報酬を払うので首都に来てほしい』と言った内容の書簡が送られて来たという。


「どうするプレス?首都まで行くかね?」


 プレスは考える。面倒ごとは避けたい。しかしエルニサエル公国の首都ハプスクラインは美しい湖の側に造られた内陸屈指の大都市であり、そしてダンジョンがあることでも知られていた。


 ダンジョン…。その存在はこの世の物ともあの世の物とも言われる不思議な迷宮。そこからは様々な武具、様々な魔石類、財宝が発見され人々の生活を潤した。ダンジョンの探索とダンジョン産である品々の採集は冒険者が受ける代表的な依頼の一つでもある。


 しばし考えたのちプレスは決断を下す。


「マスター…。首都に行ってみるよ。ただし冒険者として立ち寄るだけだ。何時迄につくとは確約できないと送っておいてくれ」


 カーマインの街における冒険者ギルドマスターを務めるガーランドは軽く頭痛を覚えながらも頷いてみせた。


「分かった。しかし…ただの冒険者が大公様を待たせるとは…。ま、それがお主らしいかの?」


 そうしてプレスの出立が決まったのだった。


「残念です。プレスさんにはずっとこの街にいて欲しかったです…」


 受付嬢は本当に残念そうだ。


「おれもこの街は好きだよ」


 昨日は黒猫亭の一人娘であるキキや常連達が送別の会を開いてくれた。この街を守ることが出来てよかったとプレスは心の中で喜んだ。


 受付嬢に笑いかける。彼女ともお別れだ…。


「それじゃ!行ってくるよ!」


「お気を付けて!」


 その日…。晴天の空の下、一人の冒険者がカーマインの街を去った。


 幾人かの心にその姿を残しながら…。

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