第25話 願い

ある日の事務所。

事務所に顔を出すと西野さんに呼び止められた。新しい曲が何曲かできたらしい。

早速、音楽データを貰い、家でも練習ができるようにした。ダンスの振り付けも明日からの練習だ。そんなに覚えられるかな。

「そうそう、上原君と彩奈と何かあった?」

「え、何かってどういうことですか?」

俺たちはお互いの体の隅々まで知っている関係ですが?

「最近、彼女の調子がすごくイイのよ。やる気もすごいし。雑誌の撮影でも女優業でも、もっとたくさん仕事を振ってくれって。今まで一度もそんなことを言ったことないのに」

精神的に充実しているのかな。俺も、一皮むけた上原千秋だし。大人の仲間入りしてるし。

「彩奈にもあなたにも頑張ってもらわないとね。いい仕事をたくさん取ってくるからバンバン働いて頂戴。私のお給料もかかっているんだから」

頑張って仕事しますよ。今、とっても充実してるから。彩奈とつり合いがとれるような男にならないといけないから。

「後は日曜日夕方の音楽番組に出れるように交渉中だから。多分2~3日中に決まるわ。事務所のコネを総動員してるから。番組出演は間違いなく決まると思うから、練習ちゃんとしなさいね」

おぅ、TVか。日曜日夕方だから家族向けかな。元気いっぱいやってやるぜ。

「TVはローカルですか?ケーブルTVですか?」

「全国放送よ」

「全国!?」

「全国」

いきなりすごいのきた。しかしこれはチャンスでもある。このチャンスをものにして一気に知名度を上げてやる。

「私たちも万全の体制でバックアップするわ。今までの何倍、何十倍のファンをゲットするチャンスよ。気合入れていくからね」

西野さん燃えてるなぁ。




~安西彩奈~

ついに千秋と結ばれてしまった。

きっかけは仕事先の社長から貰った宿泊チケット。もちろん千秋と行きたくて宿をとった。

正直に言うと少し期待はしてた。私が千秋と一つになりたかったのだ。

エッチな子と思われちゃうかもしれなけど、私の体が千秋に対しての楔になればいいと思った。絶対に千秋を手放したくないからだ。

最初は親友の友達。そして、仲のいい男の子になり、愛する人になった。運命の人は千秋。私の本能がそう告げる。

「私に千秋をたくさん刻んでほしい」

死ぬほど恥ずかしかった。そして本当に怖かった。少し声が震えていたかも。

私も子供じゃないから、愛し合う行為の内容は知っている。最初は痛いって聞くし、少し怖かったのも事実。

千秋は私の体を労わりつつも情熱的に愛してくれた。

涙が出るほど嬉しかった。好きな人と一つになれる事がこんなに嬉しいことなんて。

2人とも初めてだったのに、何回も何回も愛し合った。交われば交わるほど愛おしくなり、頭が真っ白になるまで愛された。幸せで天にも昇る気持ちになれた。

抱き合いながら寝る千秋をみて、出会えた運命に感謝した。


でも……。

私は知っている。

私の存在が一人の女の子の夢を閉ざした。

彼女は千秋の事を愛していた。

彼女はそんな態度を見せなかったけど、彼女の目をみればわかる。だって私と同じ眼差しで千秋を見ているから。

近すぎた関係が邪魔をして結ばれなかった。タイミングが少しでもずれていたら、千秋の隣は彼女だったかもしれない。いや、間違いなく彼女だ。

千秋や私には明るく接してるけど、陰で苦しそうな彼女を見てしまった。

もし、今の立場が逆だったら?きっと私は辛すぎて狂うかもしれないと思った。

千秋を知ってしまった私は彼と離れる事はできない。想像するだけでも胸が張り裂けそうになる。一度手に入れた幸せは離せない。


私は自宅の居間でTVをみてた。

目的があってTVを見ていたのでなく、何となく点けているだけなので内容は見ていなかった。

ふとニュースで国会中継が映し出されていた。

最近、外国でも重婚が認められるケースが増えてきた件だ。収入があり、配偶者を養うことができ、国の審査をクリアするのが条件みたいだけど。

ヨーロッパやアジア圏でも認められてる国がほとんどになりつつある。日本でも重婚を可能にするかを話し合ってるみたいだ。

あと4・5年もすれば、日本も法律が変わるようなことをニュースキャスターが言ってた。

これはチャンスかもしれない。彼女を救う事ができるかもしれない。

出来れば彼女を救いたい気持ちがある。私のたった一人の親友。

重婚は当事者全員が承認してくれないとできないけど、3人での結婚生活だってできそうな気がする。

私が納得しても、千秋や彼女が納得しないかもしれない。でも、まだ彼女が救われる可能性はある。

今までのクラスメイトは、住む世界が違うと勝手に線引きされて、腫物を扱うような友人関係だった。

私に、友情を素晴らしさを教えてくれた彼女。仕事にしか生きる楽しさを知らなかった私に、世界の素晴らしさを教えてくれた彼女。



私は新田恵を救いたい。




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