第780話 潜入作戦

「レナ君、君が見た限りでは地上に存在する兵士の数は何名だ?」

「そうですね、転移台の周りには……20名ぐらいですかね」

「となると、最悪の場合はその20名の兵士を倒さなければ転移台を使用する事は難しいか」

『だが、奴等は火竜を飼ってるんだろう?幼体とはいえ、あんなでかい岩山を破壊する相手だぞ。どうするんだ?』

「ふむ……」



火竜の恐ろしさはレナ達も思い知っており、火竜を倒すためだけにマドウは命を落としてしまった。しかし、今回の相手は火竜の幼体であって成体と比べれば格段に戦闘力は落ちるはずだった。


話に聞く限りでは火竜が岩山を破壊する前、火竜に火属性の魔石を食べさせていた事が判明している。そして火竜に命令を与えていたのが巨人族の男である事も分かっていた。



「火竜が現れた場合、現状の僕達の戦力では仕留めるのは難しい……と思う。だが、火竜に指示を与えていた巨人族の男が仮に「魔物使い」の類だとした場合、その男を取り押さえればどうにかなるかもしれないな」

『よし、それじゃあ船の中に忍び込んでその巨人を捕まえればいいんだな!?』

「それが出来れば苦労はしないでしょう……」

「いや、その考えは悪くないかもしれない」

「えっ!?」



カツの提案にルイは頷き、巨人族の男を人質を捕えて火竜を無効化させる案にはルイも賛同する。問題があるとすればどのような方法で男を捕まえるかであり、恐らくだが火竜も巨人族の男も船に乗り込んでいるのは間違いない。


仮にも火竜ほどの戦力を外に野放しにするはずがなく、火竜を操れる巨人族の男を火竜の傍から離れさせるはずがない。恐らくは船の中に火竜と巨人族の男は待機しているはずだと考えられ、ここでルイは妙案を思いつく。



「僕達が直接的に獣人国の軍隊に攻撃を仕掛ける事は出来ない。しかし、火竜の幼体を利用して暴れさせるのはどうだろうか?」

「なるほど……巨人族の男を捕縛し、火竜を暴れさせるように指示を出させれるのですね?」

「そうだ、火竜も奴等にとっては脅威の存在だろう。もしも船内で火竜が暴れようものなら奴等も見張りなどしている暇はない、きっと火竜を抑えつけるために全ての兵士を総動員させるだろう。その隙を狙い、僕達は転移するんだ」

「なるほど、その手があったか」

「でも、その作戦だと誰かが船に潜り込む必要がありますよね?いったい誰が……って、決まってますよね」

「ああ、悪いがこの中の面子で敵側に気付かれずに船に忍び込み、他の人間に気付かれずに行動できそうなのはレナ君だけだ」



ルイの作戦を聞いて潜入するのに最も適しているのはレナだけであった。彼はスケボを利用すれば空を移動し、暗闇に隠れて船の中に忍び込む事も出来る。だが、ここで問題があるとすれば船内にどれほどの数の獣人族の兵士が待ち構えているかも分からず、最悪の場合は発見されればレナ一人で彼等と戦う事になる。



「団長!!いくら何でもレナ一人で向かわせるのは危険過ぎます!!第一に獣人族の嗅覚や聴覚は人間離れしていると聞きます!!そんな奴等がいる場所にレナを向かわせるつもりですか!?」

「だからこそレナ君以外の人間に潜入は務まらないんだ。臭いならば水で洗い落とせる、足音ならば付与魔法の力で身体を浮かせる事が出来るレナ君だからこそ最適なんだ。イルミナ、レナ君の事を心配する気持ちは分かる。だが、この役目はレナ君にしか任せられないんだ」

「で、ですが……」

「イルミナさん、俺に行かせてください。大丈夫です、俺に任せてください」



レナに危険な役目を当た用とするルイにイルミナは反対するが、そんな彼女に対してレナは言葉を告げる。それにレナとしても獣人国の船に関して気になる点があり、どうしても確かめたいことがあった。



「俺、行ってきます!!」

「……危険だぞ?本当に大丈夫かい?」

「はい、大丈夫です!!」

「分かった……なら、出発前に僕達も出来る限りの協力をしよう。ミノ君達が戻り次第、彼等にも強力してもらおう。当然、君たちもだ」

「おおっ……我等も手伝えることがあるのですか?」

「ああ、レナ君のために君たちも手伝ってくれるか?」

「どんな事でも手伝いましょう!!勇者様のためならば!!」



ルイは西里のエルフの戦士達にも振り返り、彼女が考えたレナの潜入作戦のためには彼等の力も必要だった。そしてミノ達が戻り次第、彼女は作戦の内容を全員に伝える――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る