第745話 食肉植物の住処
「こいつは確か、食肉植物と恐れられるサボテンに擬態した魔物だ。名前は確か「ザボルン」だったはず。本来は砂漠等で生息するはずの魔物だが、どうしてこんな場所に……」
「言っている場合ですか!!焼き尽くしますよ!!」
イルミナは蔓を引き剥がすと怒った様子で杖を構え、火属性の砲撃魔法で仕留めようとした。しかし、魔法が発動する前にザボルンという名前の魔物は地中の中に潜り込み、姿を消してしまう。
「なっ!?消えた……あの巨体でなんて素早い!!」
「気を付けるんだ!!奴が何処から現れるか分からない、警戒を解くな!!」
「あ、大丈夫です。地面に隠れているなら……俺の付与魔法で引きずり出します」
姿を消したザボルンを見てレナは即座に両手を地面に押し当てると、付与魔法を発動させて周囲一帯の地面に魔力を流し込み、地中の中に存在するザボルンを見つけ出す。
レナの付与魔法は土砂を操作する事も可能のため、地中の中に隠れているザボルンを特定できれば引きずり出すのは容易い事だった。
「出て来いっ!!」
「ジュラァアアアッ!?」
レナが掛け声を上げると、土砂が動き出して地中に隠れていたザボルンを無理やりに地上へと押し出し、再び姿を現す。それを目撃したイルミナは眼鏡を掛けなおし、杖を構えて砲撃魔法を放つ。
「ブラスト!!」
「ッ――!?」
イルミナの怒りの砲撃魔法が炸裂し、ザボルンの肉体に凄まじい爆発が発生すると全身が爆炎に飲み込まれ、黒焦げと化したザボルンの死骸が地上へと墜落する。その様子を見てレナとルイは改めてイルミナの砲撃魔法の威力を思い知らされる。
ザボルンを黒焦げにした事で気が晴れたのかイルミナは満足気な表情を浮かべるが、一方で黒焦げと化したザボルンを確認してルイは疑問を抱く。
「まさかザボルンがこの島にも生息していたとは……しかもこの大きさ、普通の個体じゃないな」
「え?どういう意味ですか?」
「僕もザボルンを見るのは初めてだが、前に読んだ文献によるとザボルンは本来は砂漠のような環境に生息する種だ。普段はサボテンに擬態して近づいてきた獲物を捕まえて捕食する魔物らしいが、基本的には大きい個体でも人間の成人男性程の大きさしか存在しない。しかし、このザボルンはどう見ても成人男性どころじゃない」
黒焦げとかしたザボルンの大きさは少なくとも4メートルは超えており、並の赤毛熊よりも大きい。環境の違いのせいか、異常発達したザボルンを見てルイは不思議に思う。
「それにしても随分と黒焦げになってしまったな。ん?まだ生きてるのか、頭の方が震えて……うわっ!?」
『ぶはぁっ!!し、死ぬかと思った!!』
サボルンの巨大な頭部が揺れ動いている事に気付いたルイは首を傾げると、唐突にサボルンの内側から刃物が飛び出し、内側から樹液まみれのカツが飛び出す。それを目撃したレナ達は度肝を抜き、一方でサボルンから抜け出したカツも驚いた声を上げる。
『うおっ!?お前等、生きていたのか!!』
「か、カツ!?どうしてサボルンの頭の中から……」
「まさか貴方、食べられていたのですか!?」
「ええっ!?」
頭を内側から切り分けて現れたカツは甲冑にねばりついた樹液を振り払い、外へと抜け出す。その様子を見てレナ達は唖然とするが、一方でカツの方は外へ飛び出した途端に戦斧を手放してその場で甲冑を脱ぎだす。
『だああっ!!こんなもん、着てられるか!!』
「えっ!?カツ、待て!!こんな場所で脱ぐ気か!?」
「駄目です、レナがいるんですよ!?」
「えっ?」
「うるせえっ!!中の方までぐちゃぐちゃで気持ちが悪いんだよ!!」
カツは何故か慌てふためくルイとイルミナの言葉を無視してその場で甲冑を脱ぐと、その中身を見たレナは驚く。何しろ姿を現したのは20代後半ぐらいだと思われる男性であり、頭には二つの角を生やし、肌の色も赤く染まっていた。
甲冑の中から現れたカツの本当の姿を見てレナは驚き、どう見ても彼は普通の人間には見えなかった。恐らくはただの人間ではなく、魔人族だと思われるが、このような姿をした魔人族などレナには心当たりがない。
「あ~……すっきりした。たく、ずっと痒くて仕方なかったんだよ」
「全く、貴女という人は……あれだけ人前に正体を現しては駄目だといったではないですか!!」
「はあっ……仕方ない、レナ君。見ての通りだ、カツの正体は人間じゃないんだ」
「えっ、えっ!?」
悪びれもせずにカツは傍ので身体中の樹液を振り払い、すっきりした表情を浮かべる。そんな彼に対してイルミナは頭を抑え、ルイは仕方がなく説明を行う。
「カツは実は「鬼人」と呼ばれる種族の魔人族なんだ。鬼のような角に皮膚をしている事からそのような名前が付けられたらしい」
「鬼人……?」
聞きなれない単語の魔人族にレナは戸惑う中、ルイはカツがどうして正体を隠していたのかを話す。
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