第678話 飛行船の発進準備

――全員の準備が整い、搭乗者は甲板へと集まると外の様子を観察していたイルミナが降り立つ。彼女によると未だに火竜は中央街から離れる様子はなく、それどころか王城が存在する方角へ向けて接近している事が発覚した。


ヒトラの狙いはヒトノ王国の奪取である場合、病床の身である現国王の命を狙うのは当然の行動であった。実際にヒトラが作り出したケルベロスは王城に向かい、そして火竜も竜騎士隊の妨害を受けながらも王城の方角へと動き出していた。これが単なる偶然のはずがなく、ヒトラの目的は王城に存在するはずの国王の命を奪う事は明白だった。



「もう一刻の猶予はない……火竜が王城へ辿り着く前に儂は最上級魔法を発動させ、火竜を仕留めよう」

「最上級魔法……!!」

「砲撃魔法や広域魔法よりも上位に位置する究極の魔法だと聞いていますが……実際の所、マドウ大魔導士は最上級魔法を何度使った事があるのですか?」

「儂が最上級魔法を習得したのは50代の頃、そして60代の頃に一度使ったのみ……つまり、過去に2回だけしか使用した事はない」



マドウはかつて自分が魔法の技術を極め、最上級魔法を会得した日の事を思い返す。最上級魔法を始めて使用した際、マドウは巨大な岩山を跡形もなく吹き飛ばした事を思い出した。二度目に発動した時は他国から攻め寄せてきた軍勢を迎撃するために発動させ、見事に成功させている。


しかし、どちらの時もマドウは万全な体調の状態の時に使用した。だが、今のマドウは度重なる連戦で魔力を大幅に消耗し、今現在は自らの寿命を引きかえにどうにか肉体を維持している状態であった。この状態でもしも最上級魔法を発動させた場合、彼の死は免れない。



「皆、心して聞け。儂が最上級魔法を発動しても火竜を倒せなかった場合、お主たちは船を脱出するのだ」

「だ、脱出するといっても……この船は空を飛ぶんですよね?なら、僕達はどうやって逃げればいんですか?」

「大丈夫だ、既にクランハウスに連絡を送って待機させている天馬を全て動かす準備は整えている。飛行船が中央街へ辿り着けば僕達が飼育している天馬が救援に駆けつけてくれるよ」

「僕のヒリューもいるから、もしも誰かが落ちた時もすぐに助けてあげるからね!!」

「私の氷塊の魔法を使えば皆さんを地上まで運び出す乗り物を作れると思いますわ!!」



甲板に乗り込んだ人間の中で空を飛ぶ方法を持たない人間は金色の隼の天馬、ミナが連れ出した飛竜を利用し、飛行船を脱出する術は用意されていた。


ドリスの氷塊の魔法を駆使すれば氷の乗り物を作り出して他の人間を乗せて避難する事も可能だが、マドウは別の方法も用意していた。



「安心せい、安全面を考慮してこの船の甲板には大人数を乗せられる乗り物も運び出して居る。いざという時はレナの付与魔法を利用して乗り物を浮上させ、地上へと安全に着地させる予定じゃ」

「ああ、そういう事だったのか。だから甲板に船や馬車を用意させたんだな?そういう事なら早く言いやがれ馬鹿野郎!!」



甲板には大人数が乗り込めるだけの乗り物が多数用意され、そちらの方にも地属性の魔石は装着されていた。これならばレナが付与魔法を施せば乗り物は自由に空を飛ばせ、魔石を搭載しているので簡単に付与魔法の効果が切れる事はない。


だが、いくらレナの付与魔法でも多数の乗り物を同時に操作して地上へ下ろすのはッ難しいため、これはあくまでも緊急脱出のための手段でしかない。また、レナの場合はマドウが最上級魔法で火竜を仕留めそこなった時、飛行船の操縦者としてレナは火竜に立ち向かわなければならなかった。



「儂の最上級魔法を受けても火竜が生き残っていた場合、お主等はすぐに地上へ脱出せよ……だが、レナの場合は飛行船を操作して火竜に挑んでもらわなければならん」

「はい、分かってます」

「えっ!?ちょっと待てよ、それって兄ちゃんを置いてあたし達だけで逃げろってのか!?」

「そんなの駄目だよ!!」

「落ち着け、大丈夫じゃ……レナの場合は一人でも脱出することが出来るからな。それに飛行船を操作すると言っても、ある程度まで火竜に近づいた後に脱出し、その後は安全な場所まで離れた状態で船を操作すれば問題はない。それは間違いないな?」

「はい、大丈夫です」



レナの付与魔法はある程度の距離が離れていても魔力を付与させた物体を操作できるため、わざわざ船に乗って火竜の元にまで挑む必要はない。ある程度の距離まで近づければ後はスケボか適当な乗り物に乗り込んでレナは脱出し、その後に飛行船を操作して火竜に向かわせる事も出来る。


だが、ここで問題なのはレナの場合は脱出する前に飛行船に搭載された大量の火属性の魔石を暴発させ、火竜に衝突させたときに船ごと爆破して倒すという役割を与えられていた。つまり、飛行船に脱出する前に火属性の魔石を爆発させる装置を起動させる必要があった。

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