第674話 作戦会議 その1

「――そうか、アルト王子がヒトラの奴に乗っ取られたというのか」

「し、信じられん……」

「では、今のアルト王子は……敵に乗っ取られたという事か?」

「……申し訳ございません、僕が傍に居ながらアルト王子の事を守れませんでした」



船の甲板にてレナ達と金色の隼のルイとイルミナ、そして将軍のジオとゴロウ、最後に大魔導士が座り込んで話し合いを行う。ルイはアルト王子がヒトラに肉体を乗っ取られ、操られた事を知らせるとジオとゴロウの顔面蒼白になり、流石のマドウも怒りを抑えきれない様子であった。


状況的に考えてもアルトが乗っ取られるなど誰も予想できず、完全に死んだと思っていた相手がアルトの肉体に乗り移るなど予想さえも出来ない。しかし、それでもゴロウはルイに対して怒声を放つ。



「貴様!!乗っ取られた王子をそのまま取り逃がしたというのか!?」

「……言い訳はしません、ですが僕を罰するのならばアルト王子を救ってからにして頂きたい。今は一人でも戦力が必要なはずです」

「小娘がっ……!!」

「ゴロウ先生、止めてください!!悪いのはアルト君を止められなかった俺達もです!!」

「そうですわ、ルイさんがいなければ私達もアルト王子もとっくの昔に殺されていました!!」



ゴロウはルイの言葉に殴りかかろうとしたが、すぐにレナ達が間に割って入って彼を引き留める。教え子でもあるレナ達の言葉を聞いてゴロウも少しは落ち着くが、それでも次期王位継承者であるアルトの肉体をよりにもよって盗賊ギルドの長に奪われたという事実に彼は怒りを抑えきれずに看板の板が壊れるほどの勢いで床を踏みつける。


その様子を見ていたジオはゴロウの肩を掴んで落ち着かせ、彼も内心は穏やかではないが、今はアルトの無事を確認するためにルイに問い質す。



「アルト王子は……無事なのか?」

「分かりません、ですがヒトラの目的はアルト王子に成り代わってこの国を乗っ取ろうとしている事は確かです。恐らくは火竜を利用してこの王都を殲滅し、自分の目的の邪魔となる存在を抹消した後、姿を現して堂々とアルト王子を演じてこの国を支配するつもりなのでしょう」

「つまり、奴の目的はこの王都ではなく、国その物であったか」



マドウはジャックを通じてのヒトラとのやり取りを思い返し、やっと彼の言葉の意味を理解した。しかし、仮にも自分の弟の子孫を利用して国を奪おうとするやり方にマドウは怒りを抱き、ヒトラはもう王族ではなく、この国の害を為す巨悪だと認定した。


いくら相手が王族であろうともうヒトラは王国の敵でしかなく、そもそも彼はもう生きている存在ではない。肉体が滅びたにも関わらずにアルトに乗り移った聞いたときはマドウも驚いたが、恐らくはもうヒトラは人間ではなく、既に「悪霊ゴースト」の類と化しているのだろうとマドウは判断する。



「恐らく、ヒトラは死霊使いが扱える秘術で自分の肉体を捨て去り、魂だけの存在に変異した。普通ならば人間は死ねば天に召されるが、呪術を用いた死霊使いは自分の魂さえも操り、他人に寄生するという文献を見た事がある……まさか、ただの迷信だと思っていたが、実際に扱える人間がいたとは」

「そういえばヒトラの奴も自分の魂がどうのこうのとか言ってたような……あれって、本当の話だったのか?」

「そんな事はどうでもいい!!アルト王子を救う方法はないのか!?」

「案ずるな、仮にどれだけの強大な存在であろうと、魂と化して他の人間に憑依したとなれば死霊人形と同じように聖属性の魔法を施せば浄化してしまう。それにアルト王子が死んだとは思えん、恐らくは一時期的に仮死状態に追い込む事で奴は他の人間の肉体に憑依できるのであろう」



マドウの言葉にはルイも賛同し、アルトが自分の剣で心臓を突き刺した時は彼を殺したかと思ったが、ヒトラの目的はアルトを仮死に追い込む事だったのだろう。そして完全に死んでいなければアルト王子を救い出せる可能性は高い。


ヒトラが現れた時に対処できるのは聖属性の魔法の使い手か、あるいはレナが聖属性の魔石を利用して魔力を取り込み、肉体に憑依させたヒトラを浄化すれば今度こそ完全にヒトラを倒す事が出来る。しかし、問題なのはヒトラの居場所が不明な事と、火竜を放置できない事だった。



「ヒトラの件はともかく、火竜に関してもこれ以上に放置は出来んな……」

「イルミナ!!状況はどうだ!?」

「……未だに中央街で竜騎士隊が交戦している模様です!!場所を大きく移動する様子はありません!!」



ルイが破壊されたドッグの天井に声をかけると、天馬に乗り込んだイルミナが双眼鏡型の魔道具を使用して外の様子を伺い、火の海と化した中央街の様子を伺う。


カインが率いる竜騎士隊がどうにか火竜を王都の外まで誘導しようとするが、戦闘が始まってから30分は経過したが、一向に火竜が離れる様子はなかった。

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