第669話 弟子の役目
「ごめんなさい、お師匠様……はぁあああっ!!」
『ッ――!?』
ヒリンが拳に聖属性の魔力を宿らせると、胸元に埋め込まれた魔石に向けて叩き込む。その結果、魔石は砕け散って塵と化すと、サブの全身を覆いこんでいた闇属性の魔力が消失した。
やがてサブの肉体は糸が切れた人形のように動かなくなると、ブランはゆっくりと彼を下ろす。そして涙と鼻水を流しながら今度こそ完全に動かなくなったサブを見てブランは嗚咽を漏らす。
「うう、ああっ……あぁあああっ……!!」
「ブラン、君……」
「…………」
泣きじゃくるブランを見て他の者達は沈痛な表情を浮かべ、ヒリンも自分の手を見つめて黙り込む。弟子として二人は変わり果てたサブの姿は見ていられず、これ以上に彼の死を冒涜させないために二人は死霊人形と化したサブを楽にさせるしか方法はなかった。
大切な師匠に手を掛けた事に弟子達は項垂れ、その様子を見ていたマドウは表情を険しくさせる。彼等の気持ちを思うと怒りで煮えくり返りそうになり、ますますヒトラに対して彼を許せない理由が出来た。
(ヒトラよ……貴様だけは絶対に許さんぞ)
仮に相手が元王族であろうと、子供たちを苦しませた事にマドウは怒りを抱き、なんとしてもヒトラの思惑通りにはさせないため、火竜を倒す決意を抱く――
――同時刻、地下ではレナとジャックが激しい戦闘を繰り広げ、レナはあちこちに掠り傷を負いながらもジャックに猛攻を仕掛けていた。
「うおおおっ!!」
『グウッ……キカナイト、イッテイルダロウガッ!!』
ジャックの腹部に向けてレナは付与魔法を付加させたブーツで蹴り込み、彼を後方へと吹き飛ばす。だが、ジャックは即座に破損個所に闇属性の魔力で覆い込み、すぐに体勢を立て直す。
既に何度もジャックは普通の人間ならば何度も死に至る損傷を与えられていた。しかし、不死身の肉体と親友の仇を前にした憎しみが闇属性の魔力が溢れ、どんな致命傷を受けようとも止まらない。
『ウオオオッ!!』
「だああっ!!」
カトラスを振りかざすジャックに対してレナは闘拳と籠手で刃を弾き返すと、互いに蹴りを繰り出す。結果としてはジャックの蹴りはレナに叩き込まれると闇属性の魔力の影響でレナは体調不良を引き起こし、一方でジャックは地属性の重力によって派手に吹き飛ばされる。
『グハッ……!?』
「ぐぅっ……まだまだっ!!」
レナは身体をふらつかせながらも体勢を立て直すと、ジャックの方もカトラスを地面に突き刺して立ち上がる。一見は互角に見えるが、体力と魔力に限界が存在するレナと、いくら痛めつけられようと肉体を立て直すジャックとでは差があった。
だが、今のレナも普段の時よりも怒りの感情によって溢れんばかりの魔力を生成し、ジャックへと向けて突っ込む。闇属性の魔力に対抗するには聖属性の魔力しかない事は理解しているのだが、それでもレナは止まらない。
(こいつを倒して奴を追わないと……!!)
一刻も早くヒトラに憑依されたアルトを止めるため、レナはジャックに全力で挑む。しかし、聖属性の魔石を失い、もう地属性の付与魔法しか扱えないレナでは死霊人形と化したジャックを倒す有効な手立てはなかった。
(焦っているな……俺を早く倒してあの方を追いかけたいのだろうが、そのうぬぼれが貴様の死因にしてやる!!)
自分と戦いながらも意識はヒトラに向いているレナに対してジャックは勝利を確信し、カトラスを握りしめた。だが、ここで度重なる戦闘の不可が原因なのか、右手に握りしめていたカトラスの刃が砕け散り、ジャックは目を見開く。
長年、自分が使い続けてきた愛用の武器の破損にジャックは明らかに動揺してしまい、その隙を逃さずにレナは踏み込む。右手の闘拳をジャックの身体に突き刺し、一気に魔力を開放させた。
「これなら、どうだっ!!」
『ガァアアアアッ――!?』
闘拳に封じ込められた魔力が一気に解放され、凄まじい衝撃波がジャックの肉体の内側から放たれると、彼の肉体が崩壊して木っ端みじんと化す。周囲に肉片が散らばり、壁際に大量の血液がこびり付く。
その様子を見てレナは全身から汗を流し、いくら不死身の肉体だろうと粉々に砕いてしまえば倒せるのではないかと考えた。しかし、ここでレナはヒトラが肉体が粉々になった時に闇属性の魔力が集まって人型の姿に変化した事を思い出す。
(まさかジャックも……)
咄嗟に肉片から離れたレナは警戒すると、ジャックの肉片が徐々に動き始め、一か所に集まってきている事を確認する。どうやら肉片同士が集まって元の姿に戻ろうとしている様子だが、状況的にも時間は掛かりそうであった。
今のうちにヒトラに攻撃された皆を連れて立ち去る事を決めたレナは振り返ると、そこには憔悴したミナ達の姿があり、全員の顔色が悪かった。どうやらヒトラの生み出した黒蛇に噛みつかれた時に大量の魔力を奪われたらしく、すぐにレナは皆の元へ駆けつける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます