第658話 赤鬼
「ウオオオッ!!」
「喰らいなさい、
通路内に巨大な影を目にした瞬間、ドリスは全力で氷塊の砲弾を放つ。通路の幅の限界ぎりぎりまで作り出された氷塊の砲弾が影へと迫り、衝突した。その結果、オーガの悲鳴と共に通路の外へ人影が吹き飛ぶ。
攻撃が命中したのは間違いなく、直撃を受ければゴブリンキングであろうと致命傷を与えられる程の一撃だったため、オーガであろうと無事では済まない。だが、折角回復した魔力も消耗したドリスは膝を付いて汗を地面に垂らす。
「さ、流石にこれ以上はもう、限界ですわ……」
「よくやった、ドリス君……後は任せてくれ」
「誰か、ドリスさんを担いでくれるか?」
「それなら僕が……コネコちゃん、僕の槍を持っててくれる?」
「お、おう」
ミナはドリスを背負うと、コネコが代わりに彼女の槍を持つ。一方でルイは皆の様子を確認して眉を顰め、もう既に人数の半分が戦えない状態に陥っていた。
レナは気絶し、ドリスもシデも魔力が不足して攻撃魔法を扱える状態ではない。まだ余力が残っているのはシノとデブリとアルトの3人、ルイの場合はそもそも他の人間に支援は出来るが戦力面という点では戦闘職の3人には劣る。
「どうする皆、このまま進むか、それとも引き返すか……決断してくれ」
「ひ、引き返したとしても……さっきのような化物に襲われるんじゃないのか?」
「それを言ったらこの先にも何か待ち受けているか分からない」
「……今だったらまだ地上の勢力と合流できるかもしれない」
「それなら戦力を整えてからここへもう一度くれば……」
「そんな時間の余裕があるとは思えない。それに先ほどから襲ってくる魔物を見ただろう?あれだけの大物を相手に出来る戦力は限られている」
「何だよ、進むのも戻るのも駄目ならどうしようもないじゃんか……」
「せめてレナ君が目を覚ましてくれれば……」
通路の中でルイ達は考え込み、正直に言えば今の戦力で盗賊ギルドの隠れ家に乗り込んでも敵を制圧できる可能性は低い。仮にこの先に七影の長や火竜を操る存在がいたとしても、罠や護衛を用意していれば今のルイ達では分が悪い。
だが、ここで引き返しても無事に戻れる保証もなく、そもそも戻るにしても先ほどから現れるバジリスクやオーガ以外の脅威が待ち構えている可能性もあった。正に八方ふさがりとは現在の状況を差し、ルイは皆に決断を迫る。
「仕方ない、ここは多数決で決めよう。進むべきか、戻るべきかを決めて……」
「しっ!!」
「ど、どうしたシノの姉ちゃん?」
ルイの言葉を遮り、シノは警戒した表情を浮かべ、後方の通路へ視線を向けた。その行動にコネコ達は嫌な予感を覚えて振り返ると、通路の出入り口から血塗れの巨大な手が出現した。
その光景を確認したルイ達はまさかと思いながらも身構えると、やがて2メートル近くの体格を誇る人型の魔物が出現した。全身は赤色の皮膚に覆われ、筋骨隆々の肉体、なによりもゴブリンが可愛く思える程に恐ろしい形相をしており、額には大きな角を生やしていた。
シノが告げた「赤鬼」という名前通りに恐ろしい外見をした魔人族の登場に全員が震え上がり、ルイでさえも思考が停止してしまう。通路に乗り込んだ化物の胸元には先ほどのドリスの「
「ウガァアアアアッ!!」
「全員、逃げるんだ!!
遂に「オーガ」を目にしてしまったルイは即座に全員に補助魔法を施し、通路の先へ進むように促す。そんな彼女の行動に全員が真っ先に従い、オーガに追いつかれる前に駆け出す。
ルイの補助魔法の持続時間は長くても1分ほどだが、その効果は非常に大きく、限界以上に能力を高められる。但し、反面に効果が切れてしまうと一気に反動で疲労に襲われるという弱点もあるため、本来は使い道を考えて利用しなければならない。
だが、今回の場合は本能的にルイは全員が生き残るためにと補助魔法を使用し、逃走する事に全力を注ぐ。ドリスの最強の攻撃魔法の
「絶対に足を止めるな、逃げる事だけに集中するんだ!!」
『ウオオオオッ!!』
背中を向けて駆け出した獲物に対してオーガは怒りの声を上げて駆け出し、その速度はコボルトのように俊敏だった。トロール級の怪力を誇りながらコボルト並の素早さ、更に耐久力はゴブリンキングを上回る化物を相手に今のルイ達では逃げる事しか出来ず、通路を進む選択肢しかなかった。
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