第654話 地下通路の先には

「くっ……前に通った所と比べると随分と狭いですわね」

「それは仕方ない、そもそもカーネの屋敷に忍び込んだ時の通路は、カーネが裏で取引をするために地下通路を勝手に工事していた」

「へえ、君たちはカーネの屋敷に忍び込んだ事もあるのかい?」

「ど、どうしてそんな事を……」

「あ、やべ……そういえば姉御と王子はあの時に居なかったよな」

「姉御って、僕の事かい?また、個性的な呼び方だね……」



シノの言葉に事情を知らないルイとアルトは意外そうな表情を浮かべるが、地下通路の方は以前にドリスやミナがカーネの屋敷に忍び込む際に使用した物と比べると非常に狭く、人間が通れるほどの大きさしかない。


先頭はシノが移動を行い、この中では小柄で狭い通路を楽々と通れるコネコだけが苦もなく通路を通る。シノの記憶が正しければこの通路を通れば飛行船が保管されているドッグの近くまで辿り着けるはずだが、ここでシノは立ち止まってしまう。



「どうした、シノの姉ちゃん?」

「……おかしい、前に着た時はここに分かれ道なんてなかった」

「何?本当なのか?」

「記憶違いじゃないのかい?」

「忍者の記憶力を舐めないで欲しい。確かにこの先は一本道だった……こんな場所に分かれ道なんてない」



移動の最中、シノは右側に繋がる通路を発見して訝し気な表情を浮かべ、彼女は通路の先を覗き込む。他の者も通路を除くが、暗闇に覆われているために様子が確認できず、真っ直ぐに通路が伸びているようにしか見えない。



「ふむ、シノ君の記憶にはない通路か……どうするんだい?」

「どうする、とは?」

「この先の通路を調べてみるか、それとも飛行船に避難を優先するかだね」



ルイの言葉にシノは悩み、状況的に考えれば一刻も早く地上に残存している勢力と合流を果たすべきだろう。だが、彼女の忍者の勘がこの先に何かが存在する事を察知し、シノは決断したように頷く。



「この通路の先を少し調べてみたい」

「お、おい!?本気か?そんな事をして大丈夫か?」

「大丈夫かどうかと聞かれれば分からない。もしかしたら調べたところで徒労に終わるかもしれないけど……気になる事が幾つかある」

「気になる事?」

「この地区の何処かにジャックを死霊人形に変貌させた存在がいる……多分、この地下通路に潜んでいる可能性も高い」

「何だって!?」



シノはジャックの追跡を行う時、彼に止めを刺そうとした時に大穴が誕生し、ジャックが地下に落ちた事を話す。その後にシノは追跡を行ったのだが、ジャックを発見したのは工場区の地下の通路であり、既に彼は死霊人形と化していた。


この時点で考えられるのは死にかけていたジャックを死霊人形と変貌させたのは七影の長である「ヒトラ」で間違いなく、黒兜が出現した時もヒトラは工場区に存在した。そして現在は姿をくらましているが、もしも身を隠すとしたら地上よりも地下の方が隠れやすく、更にシノが存在を知らなかった地下通路を発見した。



「あくまでも可能性の話だけど……もしかしたらこの通路もカーネの時と同様に誰かが何らかの目的で勝手に築いた隠し通路の可能性がある」

「隠し通路か……確かにそれは気になるね」

「待ってください、そんな憶測で調べるなんて……」

「どちらにしろ、シノ君がいなければ我々は地上へ出る事は出来ない。それに状況的に考えれば地上よりも地下の方が安全の可能性が高い。それに僕の冒険者の勘もここは怪しいと告げている……多数決で決めよう、この通路を調べるべきか否かを今決めてくれ」



ルイの言葉に全員が黙り込み、シノの事を信頼している仲間達は反対は出来ない。シデもアルトも気にならないといえば嘘になるため、反対はしなかった。全員の賛同を得られたと判断すると、シノは武器を抜いて先方を歩く。


自分の判断で寄り道をする以上は何としても他の人間に迷惑を掛けないためにシノは緊張した表情を浮かべて歩き、罠や奇襲に対して最善の注意を払う。一方でルイの方も後方への奇襲を警戒し、ドリスも無理をしない程度に魔力感知を発動させて様子を伺う。



「どうだい、ドリス君?この近くに反応はあるかい?」

「それが……おかしいですわ。何か、変な感じがします……」

「変な感じ?」

「その、ちょっと表現しにくいのですが……まるで霧に包まれたような感覚ですわ。魔力を感知しようとしても、上手く探知が出来ないというか……」

「なるほど、それは僕も一緒だよ……どうやらこの通路は普通じゃないね」

「普通じゃない?それはどういう……」

「待って……動かないで」



先頭を歩いていたシノが立ち止まり、彼女は何かに気づいたように前方に視線を凝らすと、暗闇の中で動く影を確認する。それを見てシノは両手の妖刀を構えた時、影はゆっくりと近づいてきた。


こちらに接近する影の形を見てシノは即座に「暗視」の技能で正体を捉えようとしたとき、彼女の眼に映し出されたのは緑色の鱗で覆われた生物だった。

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