第644話 ケルベロスの反抗

「シャアアアアアッ!!」

「レナさん!?」

「やっと来たかっ!?」



レナとミナが乗り込んだヒリューが咆哮を放つと、ケルベロスの周囲を旋回していた者達は魔鉄槍を両手に構えた状態でヒリューに乗り込むレナの姿を確認する。その一方でレナの他のミナが乗っている事に気づいたカインは驚愕の表情を浮かべた。


どうしてアルトではなく、自分の娘がヒリューに乗っているのかとカインは疑問を抱くが、今はそんな事を気にしている暇はなく仕方なく彼は命令を降す。



「散開!!」

『シャアアッ!!』



カインの命令を受けて竜騎士が跨った飛竜達は即座に行動を起こし、ケルベロスから離れる。魔鉄槍を撃ち込むときに空を飛ぶ飛竜が邪魔にならないようにカインは下がらせると、レナは右腕に握りしめた魔鉄槍を放つ。



「いっけぇえええっ!!」

『オアッ……!?』



地属性と聖属性の魔力を付与した魔鉄槍がケルベロスの胴体に向けられて放たれ、傍から見たら「光の槍」がレナから放たれたようにしか見えない。迫りくる魔鉄槍を見てケルベロスは驚愕の表情を浮かべ、咄嗟に避けようとした。


しかし、巨体が仇となって完全な回避は失敗してしまい、躱そうとした際にケルベロスの三つの頭の一つが射抜かれてしまう。その結果、魔鉄槍が触れた瞬間にケルベロスの頭は瞬時に消滅してしまう。



『オオオオッ……!?』

「効いた!?」

「やはり、聖属性の魔法が弱点だったか!!」

「今だ、畳みかけろ!!」



レナの魔鉄槍によって頭部の一つが消え去ったケルベロスを見て聖属性の魔法が通じる事が証明され、すぐに次の攻撃を行うようにカインは指示を出す。その間にもミナはヒリューを操作してケルベロスに近付き、レナが狙いやすいように距離を詰める。



「頑張って、ヒリュー!!」

「シャアアッ!!」

「……ここだっ!!」



ヒリューはミナの言葉を聞いて恐怖を押し殺しながらケルベロスに接近すると、レナは左手の魔鉄槍を放つ。今度こそ胴体を貫くために放つが、それを確認したケルベロスは残された二つの頭の一つを伸ばす。



『オアアッ……!!』

「そんなっ!?」



魔鉄槍が胴体へ届く前にケルベロスは瓦礫を加えていた自分の頭の一つを犠牲にし、魔鉄槍の軌道を逸らす。単純に頭を突っ込んでいれば魔鉄槍の放つ聖属性の魔力を受けて頭部は消滅していただろうが、口に含めていた瓦礫を利用してどうにか軌道を逸らした。


攻撃の軌道が逸らされた魔鉄槍は完全に胴体には的中せず、ケルベロスの背中側を大きく削り取る。その結果、闇属性の魔力で覆われていた黒兜の肉体の一部が表面に現れるが、戦闘不能に追い込むまでの損傷ではなかった。



『オアアアアッ!!』

「いかん!?避けろ、ミナ!!」

「ぶつかるぞっ!?」

「避けてっ!?」



二度目の攻撃も失敗した事でレナ達はヒリューに乗り込んだ状態でケルベロスに近付く羽目になってしまい、それを見たカイン達はレナ達に注意を行う。ケルベロスはまだ一つ頭を残しており、牙を広げて飛竜の元に迫る。



『オアアアアッ!!』

「わあっ!?」

「シャアアッ!?」



迫りくる巨大な狼の頭にミナとヒリューは悲鳴を上げるが、その光景を見てレナは咄嗟に闘拳に手を伸ばす。




――この時、レナの闘拳は聖属性の魔力を宿している事に全員が気が突き、先ほどは魔鉄槍を握りしめていたので分からなかったが、既にレナは闘拳の方にも聖属性の魔石を破壊して魔法拳を発動していた。




二つの魔鉄槍が回避、あるいは無効化された時を考慮してレナは闘拳にも聖属性の魔力を取り込んでおき、迫りくるケルベロスの頭へと放つ。



!!」

『ッ――――!?』



言葉通りにレナは大口を開いたケルベロスの頭部に向けて闘拳を放ち、聖属性の魔力を纏った闘拳はケルベロスの最後の頭を簡単に消滅させる。残されたのは胴体だけであるが、それに対してレナは先ほど魔鉄槍の攻撃で魔力が剥がれた箇所に視線を向ける。


最後の攻撃の好機だと判断したレナはオリハルコンの弾丸を装填した魔銃を取り出し、飛竜の背中から跳躍して空中へと移動を行う。そのレナの攻撃に全員が驚く中、余った聖属性の魔石の魔力を全て取り込んだオリハルコンの弾丸をレナはケルベロスへと打ち込む。




「終わりだ!!」

『ッ―――!!』




露出した「黒兜」の外殻にオリハルコンの弾丸は撃ち込まれ、そのまま体内の奥深くへと移動すると、オリハルコンが吸収していた魔力が一斉に開放して内側から聖属性の魔力を放つ。


結果から言えば「ケルベロス」の形を保っていた闇属性の魔力は消え去り、傷だらけの黒兜の死骸が露になって街道へと倒れ込む。その様子を確認したレナは安心する一方、すぐに自分が空中に放り出されている事を思い出す。



「うわわっ!?」

「レナ君!!」

「シャアアッ!!」



慌ててミナがヒリューを操作して地上に落ちる前にレナの腕を掴むと、そのまま自分の背中へと移動させる。その彼女の行動にレナは有難く思うと、完全に動かなくなった黒兜を見て本当に倒した事を認識する。






※今回はここまでです。次回は明日からになります。

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