第638話 光の槍
「はぁあああっ!!」
「これは……!?」
「うわっ、眩しいっ!?」
「す、凄い魔力ですわ……!!」
闘拳に付与された魔力が魔鉄槍に流れ込んだ瞬間、二つの魔力が絡み合う螺旋の軌道を描きながらも槍に移動を行う。それを見たレナは額に汗を拭いながらも地属性の魔力だけではなく、魔石を破壊した事で得た聖属性の魔力を送り込める事を確認した。
魔鉄槍に地属性と聖属性の魔力が宿り、外見は正に「光の槍」という表現が正しい。光り輝くのは聖属性の魔力の方が大きいからだと考えられ、この状態でレナは魔鉄槍に装着されている地属性の魔石の確認を行う。
(よし、この状態でも普段通りに操作する事が出来る)
地属性の魔石が装着された物体ならば付与魔法で自由に操作する事が出来るため、試しにレナは魔鉄槍を浮揚させると、問題なく動かす事が出来るのを確認する。そしてもう一つの魔鉄槍に視線を向け、レナは闘拳を握りしめる。
「このままもう一つの槍も魔力を流し込みます」
「大丈夫なのかい?」
「やって見せます!!」
「頑張ってレナ君!!」
「何か手伝えることがあったら言ってくれ!!」
レナは聖属性の魔石をつかみ取り、再び破壊して魔力を取り込もうとした瞬間、不意にコネコとルイは何かを感じ取ったように周囲に視線を向ける。
嫌な気配を感じたのは二人だけではなく、遅れてミナとアルトも何かに気づいたように武器を構え、最後にドリスとシデも他の者達の反応を見て異変に気づく。
「ど、どうしたんだ……」
「……囲まれている」
「ああ、それも相当な数だ」
「えっ!?」
コネコとルイの言葉にシデは慌てて周囲を見渡すと、建物の陰から次々と人間が現れた。全員が一般人のような恰好をしており、中には子供の姿も存在する。だが、彼等全員の手には武器が握りしめられていた。
唐突に現れた武装した一般人の格好をした集団にレナ達は戸惑うが、すぐにルイは彼等の正体が工場区や中央街の住民ではなく、一般人に扮した盗賊ギルドの人間だと判断する。
「どうやら僕達に邪魔をされたくないらしいな……ここで殺すつもりらしい」
「な、何だって!?」
「これだけの数の人間が近づいていたのに気づかなかったなんて……」
「くそ、こいつらも普通の人間じゃなさそうだな……!!」
「君たち、止めるんだ!!それ以上に近付くな!!」
『…………』
武装した人間達は虚ろな瞳でレナ達を見据え、その様子を見たルイは疑問を抱き、彼等の様子がおかしい事に気づく。最初は盗賊ギルドが送り込んだ敵かと思ったが、それにしてはどうも反応がない事に疑問を抱く。
不思議に思ったのは彼女だけではなく、コネコも鼻を引くつかせて嫌な表情を浮かべる。彼女はこの中では人一倍に鼻が強く、唐突に現れた集団から異様なまでの「死臭」を感じ取った。
「うえっ!?何だこいつら……へ、変な臭いがする!!」
「臭い?どういう意味だ!?」
「まさか……」
コネコの言葉を聞いてルイは敵の様子を観察すると、全員が服に血が滲み、致命傷といっても過言ではない傷跡を持つ者もいた。それに気づいたルイは彼等が何も反応を示さない事、そして何よりもレナが付与魔法を発動した瞬間に現れた事に疑問を抱き、ある予測を立てる。
(まさか!?)
ルイはケルベロスに視線を向け、そして自分達を取り囲む人間の様子を伺い、魔力感知を発動させる。ほんの僅かではあるが武装した人間達にもケルベロスが放つ禍々しい魔力と同質の魔力を感じ取った。
この事からルイは敵の正体が盗賊ギルドが派遣した暗殺者ではなく、ケルベロスと同様に操られた「死体」である事に気づく。その事実を知ったルイは全員に注意した。
「気を付けるんだ!!この人たちは暗殺者じゃない、既に死んでいる……アンデッドだ!!」
「アンデッド!?」
「そんなっ!?」
アンデッドという単語に全員が驚き、周囲に存在する人間達の様子を伺う。確かに言われてみれば彼等の表情は普通ではなく、そもそも瞳も焦点が合っていない。しかも中には片腕を失った者や毒の症状を引き起こしている状態の人間もいる。
恐らくは昆虫種に襲われて死亡した人間を利用し、ケルベロスのように使役していると思われた。ケルベロスと違う点はこちらの人間達の狙いはレナ達である事だった。
「ど、どうすればいいの!?」
「アンデッドを倒す方法は焼き尽くすか、あるいは聖属性の魔法で浄化する以外に方法はないと聞いた事があります。しかし、私達の中に聖属性の魔法を扱える人間なんてルイさんぐらい子か……」
「いや……ここにいる」
アンデッドに取り囲まれた事で逃げ場を失い、どうすればいいのかドリス達が戸惑う中、レナは光の槍を手にして前に出た。その行動に誰もが驚き、一方でレナはアンデッドの様子を見て槍を構える。
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