第615話 シノ、推参
「お前は……何処かで見た顔だと思えばサブの弟子か。あいつめ、自分の弟子ぐらい管理できないのか」
「な、何だと……!?」
「まあいい、サブの奴には後でお前の死体を見つけたと報告しておいてやる。潔く、死ね」
「止めろっ!?」
「お待ちなさい!!」
人質としての価値もないと判断したのか、あるいは人質など利用しなくてもドリスとシデを始末できると考えたのか、どちらにしろジャックはこれ以上ブランを生かす理由がなくなったとばかりにカトラスを振り翳し、彼の首を刎ねようとした。
その光景を見てドリスとシデは我慢できずに魔法を発動しようとした瞬間、ジャックは目つきを鋭くさせて彼はカトラスの軌道を変更させる。ブランの首に目掛けて刃を無理やりに自分の背後へと振り払うと、金属音が鳴り響く。
「ちぃっ!!」
「……惜しかった、流石に勘は鋭い」
「お、お前は……!?」
「シノさん!?」
何時の間にか接近していたのか、ジャックの背後にはシノが立っており、彼女は氷華と炎華を抜いた状態でジャックの放ったカトラスを弾く。唐突に現れたシノに誰もが驚く中、ジャックの方は忌々しそうな表情を浮かべて彼女に切りかかる。
「あの時のガキかっ!!」
「ふっ!!」
二人はその場で両手の剣を振り翳し、一瞬の間に十数合は打ち合う。金属音が幾度も鳴り響き、やがてジャックの方が痺れを切らしたようにシノを蹴りつけようとした。
ジャックの蹴りに対してシノは一歩後退して回避すると、伸ばしきった足に目掛けて刃を振り下ろそうとする。それを確認したジャックは咄嗟に後ろに倒れ込む事で刃を回避すると、即座に体勢を整えて向かい合う。
「くそっ……前の時よりも随分と魔剣を使いこなせるようになったな」
「修行した。もう、前の時の様にはいかない」
「ちっ……その魔剣はイゾウの物だ、返してもらうぞ!!」
七影のイゾウが所持していた魔剣を勝手に奪い取り、しかも短刀に打ち直して自分の武器のように扱うシノに対してジャックは怒鳴りつける。するとシノはそんな彼に短刀を構えると、飄々と言い返す。
「そもそもこの武器は和国の刀……なら和国の人間である私が預かるのが当然」
「このガキがっ!!」
シノの言葉を聞いてジャックは跳躍を行うと、上空から剣を振り下ろす。その攻撃に対してシノは足元のブランを蹴り飛ばし、攻撃を躱す。
「ごめん、邪魔」
「ふげぇっ!?」
「月光斬!!」
ジャックが剣を振り下ろした瞬間、攻撃の軌道が「三日月」を想像させ、彼が振り下ろした二つの剣の刃は地面に叩きつけられる。並の武器ならば刃が折れていただろうが、ジャックの所持するカトラスは根本の部分まで刃が地面にめり込む。
地面にめり込んだカトラスの刃を見てシノは彼が所有する武器もただの武器ではない事を見抜き、その切れ味と耐久性の高さを見て彼女は関心を抱く。
「貴方も良い武器を持っている」
「図に乗るな、ガキが……俺の武器も奪うつもりか?」
「正確に言えば貴方を切り伏せた後、その傍に落ちている武器を拾うだけ」
「……盗賊らしい考え方だな、少し気に入ったぞ」
シノの言葉にジャックは初めて笑みを浮かべ、カトラスを引き抜く。その様子を見てドリスは今ならば魔法でジャックを狙えると考えたが、彼女が行動を移す前にジャックとシノは互いに剣を交じ合わせる。
「はああっ!!」
「せいっ!!」
「きゃあっ!?」
「は、早い!?」
二人は目にも止まらない速度で動き、あちこちを動き回って剣を交わす。それは剣士同士の決闘ではなく、一流の暗殺者と忍者の戦闘だった。純粋な速度ならばシノが上回っているが、剣の技量はジャックが上回るらしく、二人は激しく打ち合う。
刃を交わしながらも走り続けるシノとジャックはやがて場所を変え、建物の壁を駆け上って屋根の上へと移動を行う。互いに足場が悪い状況の中で二人は剣を交わし、戦技を繰り出す。
「鋏断ち!!」
「受け流しっ!!」
カトラスを重ね合わせて「鋏」の如く切り裂こうとしたジャックに対し、シノは彼の放った刃の軌道を逸らすように短刀を繰り出すと、彼女の背後に存在した煙突が切り裂かれる。
「刺突!!」
「回転!!」
今度はシノが両手の短刀を同時に付いた瞬間、ジャックはカトラスの柄を合わせて回転させ、彼女の刃を叩き落す。刃を弾かれたシノはそのまま建物の屋根の上から落ちそうになったが、彼女は落下の途中に片方の短刀を手放して建物の宿に手を伸ばし、どうにか地面に落ちるのを防ぐ。
その様子を確認したジャックは窓にぶら下がるシノに目掛けて懐にしまい込んでいた短剣を取り出し、彼女に投げつける。それに対してシノは短剣が突き刺さる前に窓から離れると、何事もないように地面に着地して先ほど手放した短刀の回収を行う。それを目撃したジャックも屋根から飛び降りると、再びシノと向き合う。
二人がただの剣士ならばここまで派手に動き回る事はかっただろうが、暗殺者と忍者であるが故に勝利するためには手段を選ばず、隠し武器であろうと何だろうと使う事に躊躇しない。
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