第613話 ドリスの説教
『おっと、その前にお主等にやって欲しい事がある。儂が合図を送り次第、この船を爆破せよ』
『爆破……ですか?』
『うむ、今から教える場所にお前達は潜伏し、儂が合図を送った時に事前に仕掛けた魔石を暴発せよ。安心せい、爆破した後は必ず儂がお前達を救おう』
『で、でも……』
『これは命令じゃ、従えないのであれば……もうお主等は必要ない』
サブの言葉にブランも他の4人の弟子も逆らう事が出来ず、彼等はサブの指定した場所に潜り込み、彼からの合図を待とうとした。だが、結果としては彼等はサブの命令を果たす事は出来なかった。
『よう、お前ら……何処へ行くんだ?』
『悪いが、君たちは拘束させてもらう。無駄な抵抗は止めた方がいい、怪我をさせるかもしれないからね』
通路を移動中、5人は黄金級冒険者のカツとイルミナに挟まれた。彼等の態度と言葉からどのような方法を使ったのか分からないが、サブからの指示を受けている事が気づかれたと判断した5人は咄嗟に警戒態勢に入ってしまう。
だが、相手が格上の黄金級冒険者2人であった事が災いし、結局は他の4人の仲間達は捕まってしまい、ブランだけが逃げ出す事に成功した。しかし、仲間を見捨てて自分だけが逃げのびた事にブランは項垂れ、当てもなく逃げている最中に彼はドリスと遭遇した――
「畜生、何やってるんだ俺は……師匠のいう事も守れず、
「ふんっ!!」
「ぐはぁっ!?」
「おい!?何してんだ!?」
涙を流して自分の非力さを嘆き悲しむブランに対し、ドリスは再び平手打ちを行う。その様子を見てシデは慌てて彼女を止めようとしたが、ドリスはブランの首根っこを掴んで無理やりに持ち上げる。
「さっきから貴方が何を言っているのか分かりませんが、これだけは言ってあげますわ!!」
「な、何だよ……!?」
「悪い事をしてはいけない、それだけですわ!!」
「ええっ!?」
あまりにも当たり前の台詞を告げたドリスにブランもシデも戸惑い、そんな二人に対してドリスは呆れた表情を浮かべながら説教を行う。
「ブランさん、貴方がどれほどエロ爺……いえ、サブ魔導士を尊敬しているのかは知りませんが、いくら敬愛する相手だからといって何でもかんでも言う事を聞けばいいという物ではありませんわ!!」
「い、いや……だけど、老師は俺の……」
「大切な人が誤った道に踏み込もうとすれば、それ止めるのが当たり前ですわ!!どんなに大事に思っていても、その人が間違った事をしようとしているのであれば、全力で止める!!それが人として当たり前の事ですわ!!」
「か、簡単に言うんじゃねえよ!?俺なんかが止めたところであの人が……」
「黙らっしゃい!!」
「ひでぶぅっ!?」
言い訳をしようとしたブランの頬に再びドリスは平手打ちを食らわせると、叩かれ過ぎて頬が晴れてきたブランは涙目を浮かべる。シデは止めるべきか悩むが、彼女の言い分も一理あるのでここはドリスに任せる事にした。
ドリスはブランを手放すと、彼を見下ろして腕を組み、自分は間違っていないとばかりに鼻を鳴らす。そんな彼女を見てブランは混乱し、自分はどうすればよかったのかを問う。
「な、なら俺はどうすればよかったんだよ!?師匠に辞めるように言えばよかったのか!?それとも他の人間に相談しろとでも!?俺達が師匠を止めれば良かったとおいうつもりか!?」
「全部です!!今言った事を全部実行するのが正しい行為ですわ!!」
「無茶を言うなよ!!あの人が俺達なんかが止められる相手じゃ……」
「やかましいですわ!!」
「あいだぁっ!?」
まだ言い訳を口にしようとするブランにいい加減に切れてきたドリスは頭突きを繰り出すと、彼女は額の部分を赤く腫れさせながらもブランに言い放つ。
「私ならば仮にマドウ大魔導士が間違った事をしようとすれば止めますわ!!仮に自分の師であろうと、相手が親や友達だとしても、間違った事をしようとすれば全力で止める!!その過程で相手に嫌われようと、もう二度と顔も見たくないと思われようと……それでも止めて見せます!!」
「お、俺は……お前みたいに強くないんだよ……」
「大切な人に見捨てられるのが怖いという気持ちはよく分かりますわ。だけど、現にこうして貴方はその大切な人の命令に従って苦しんでいるではないですか……貴方自身は自分の行為に納得しているのですか?」
「そ、それは……」
「大切な人に嫌われるとしても、自分自身が納得しないのであれば私は立ち向かいます。さあ、これ以上は長話は出来ません……レナさんは無事ですか?」
ドリスの言葉にブランは衝撃を受けた表情を浮かべ、彼女は言いたいことを言えたとばかりにすっきりした表情を浮かべると、本題へと戻る。ドリスからすればレナの安否を確認する事が最優先であるため、ブランから話を聞かなければならなかった。
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