第608話 恐るべき計画

「なっ!?やめろ、近づくなっ……ぐわぁあっ!?」

「こ、この虫がぁっ!!フレイムランス!!」

「ギィアッ!?」

「キィイイイ!!」



サブの弟子である魔術師達にも昆虫種は容赦なく襲い掛かり、その様子を見てドリスは驚くが、シデはその姿を見て笑みを浮かべる。



「はっ、どうやら虫除けの袋がさっきの魔法で失ったようだな」

「虫除け?」

「昆虫種は特定に臭いを拒む特徴を持っている。だからサブの弟子達には事前に昆虫種に襲われないように虫除けの効果を持つ香り袋が渡されてるんだよ。だけど、こいつらはさっきの魔法でその袋を失ったようだがな!!」

「で、でもこのままじゃ殺されるべっ!?助けないと……」

「馬鹿野郎!!そんな奴等の心配している場合か、すぐに離れるぞ!!」

「ま、待て!!くそ、離れろ虫共!!」

『ギチギチギチッ!!』



シデはチョウとドリスの腕を掴み、急いでその場を駆け出す。残された魔術師達は襲い掛かる昆虫種に対して応戦を行い、3人の追跡は断念せざるを得なかった。


ドリスは走りながらもシデに顔を向け、サブが彼に具体的にどのような命令を与えたのか、そして現在の王都で何が起きているのかを問いかける。



「シデさん!!この騒動は全てサブ魔導士が仕掛けたのですか!?」

「いいや、違う!!確かにあいつの弟子達が騒ぎを起こしているのも事実だが、この昆虫種を招きこんだのは別の存在だ!!」

「それってまさか……盗賊ギルドの事だべか!?」

「そうだ!!奴等は本気でこの国を乗っ取るつもりだ……!!」



チョウの言葉にシデは頷き、盗賊ギルドが本格的にバルトロス王国に攻撃を仕掛けてきた事を告げる。その彼の言葉にドリスはどうしてそこまでシデが詳しいのか疑問を抱く。



「シデさんはサブ魔導士に今回の騒動が起きる事を聞いていたんですの!?」

「いや、俺はサブの奴からは行動するときは他の弟子の指示をよく聞けとだけしか言われていない……だが、そのお陰で俺は他の弟子共から色々と話を聞いた。今回の騒動は盗賊ギルドが引き起こす事も、そしてあいつらの真の目的もな!!」

「真の目的!?それはいったいなんですの!?」

「それは……」

「待って!!」



シデが言葉を告げる前にチョウが大声を上げると、彼は上空を指差す。二人は空を見上げると、そこには昆虫種の大群と争う飛竜の姿が存在した。


どうやら竜騎士隊も出動したらしく、飛行能力を持つ昆虫種の群れと戦っていた。飛竜に乗り込んだ竜騎士達は次々と昆虫種を討ち取り、空中で打ち取られた昆虫種の死骸は地上へと墜落していく。



「竜騎士隊だ!!竜騎士隊が来てくれたべ、もう安心だ!!」

「やっと軍隊が動き出したのですね……」

「……いや、違う。最悪だ!!こいつらが現れたという事は計画はもうすぐ最終段階に入る!!」

「えっ……それはどういう意味ですの?」



ドリスはシデの言葉を聞いて驚き、どうして竜騎士隊が動いた事が問題なのかと疑問を抱く。シデは王都の北の方角に視線を向け、全身から冷や汗を流す。そんな彼を見てドリスは我慢できずにシデに尋ねた。



「シデさん、教えてください!!盗賊ギルドは何を仕出かすつもりですの!?」

「奴等の目的は……ただの時間稼ぎだ」

「じ、時間稼ぎ?それはどういう意味だべ?」

「言葉通りだ……奴等の目的は城下町を炎上させて、その対応のために軍隊を動かすんだ。大量の昆虫種やサブの弟子達は所詮は捨て駒……本命は外部からこの王都を壊滅させる存在を呼び込むためだ」

「壊滅!?それはどういう意味ですの!?」



シデはドリスの言葉に表情を引きつらせ、彼は身体を震わせながら声を絞り出すように告げた。




「――火竜だ。奴らの目的はこの場所に火竜を呼び寄せようとしているんだ」




数秒の間を置いてドリスはシデの言葉の意味を理解すると、彼女は顔色を青白くさせて無意識に後ずさり、チョウに至っては腰が抜けたのか座り込む。その様子を見てシデは黙って俯き、彼自身も自分の言葉に怯えた様に身体を震わせる。


火竜を王都へ連れ出すと聞かされて落ち着けるはずがなく、よりにもよってこの王都に、バルトロス王国の中で最も人口が集まった都市に火竜が襲撃すればその被害を考えるだけで恐ろしい。


しかも、シデによると既に計画は動き出しており、火竜はもう王都へ向けて移動を行っている頃だという。ここから火竜が隠れ家にしていた湖までは距離はあるが、火竜の移動速度ならばそれほど時間を掛けずに王都へと辿り着けるだろう。



「そ、そんな……そんなっ!!」

「火竜がっ……火竜がこの王都にくるなんて、信じられないべ!!」

「……事実だ。俺も今朝、この話を聞かされた。本来の計画なら飛行船が出発した後に火竜を王都へ呼び寄せる計画だったらしいがな」



シデの言葉にドリスもチョウも信じられない表情を浮かべるが、シデも他の弟子達から聞かされた時は二人と同じ反応をした。だが、残念な事にもう火竜が王都へ向かっているという事実に変わりはない。

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