第604話 竜騎士隊の出動

――同時刻、黄金級冒険者であるダンゾウは街中にて住民の避難誘導を行い、魔物達を蹴散らしながらも火災に襲われた建物の中の住民の救助を行う。



「よし、もう大丈夫だぞ」

「ううっ……あ、ありがとうございます」

「助かりました」

「気にするな、さあ逃げるんだ。ここからだと王城が近い、そこまでいけば大丈夫だ」



火事が起きている建物の二階に取り残された男女を、自分の巨体を生かしてダンゾウは窓から迎え入れる。救出された男女はダンゾウに感謝を述べると避難を行い、それを確認したダンゾウは他の場所へ移動を行う。


彼は偶然にも工場区へ向かう途中、忘れ物をした事に気づいてクランハウスへと引き返そうとしたとき、今現在の事態へと陥ってしまう。人々を避難させるためにダンゾウは何時の間にか一般区にまで移動していた。



(くっ……ここが一番、火災が酷いな。このままでは多くの人間が危機に晒されてしまう。警備兵は何をしている?いや、彼等も人手不足か……)



ダンゾウは最も人口率が高い一般区の住民の避難活動を行い、この区域が最も火災による被害が激しいことを悟る。だが、反面にこの区域では昆虫種は殆ど姿を見せず、魔物による被害は少なかった。


人々の避難を誘導しながらもダンゾウは王都で何が起きているのか事態を把握しきれておらず、判明している事はこの王都が危機に晒されている事だけである。このままでは火災は一般区だけではなく、他の区域にも広がってしまう。



(ここでどうにかしなければ王都は火の海と化す、それだけは避けねば……むっ!?)



上空を見上げたダンゾウは空を飛ぶ「飛竜」の姿を確認し、どうやらやっと王城の方で待機していた竜騎士隊も動き出した事に気づく。どうやら住民の救助のために大量の飛竜が放たれたらしく、竜騎士達も避難誘導を地上の人々に告げる。



「全員、王城へ避難せよ!!身体が動ける者は怪我人に力を貸してやれ!!王城へと避難するんだ!!」

「りゅ、竜騎士隊だ!!」

「やっと来たのか……頼む、俺の子供が屋上に取り残されているんだ!!助けてくれぇっ!!」



竜騎士隊が現れた事で避難中だった人々も安心した表情を浮かべるが、状況的に考えても安堵している場合ではない。いくら空を飛べる飛竜を従えているといっても、竜騎士隊の数は総員で50名にも満たず、しかも救助のために派遣されたのはその半数程度である。


一般区には竜騎士隊の何百倍、何千倍もの人間が暮らしており、どう考えても人手が足りなすぎる。ダンゾウも救助活動を手伝ってはいるが、このままでは多くの住民が被害を受けてしまう。



(くそっ……こんな時に他の冒険者達は何をしている!!)



ダンゾウは冒険者ギルドの冒険者が動かない事に苛立つが、一方で冒険者ギルドの方でも予想外の事態に苛まれていた――






――冒険者ギルドへ向けて空を飛んで移動を行うドリスだったが、その途中で彼女は飛行能力を持つ昆虫種の追撃を受けていた。特にドクハチと呼ばれる巨大蜂は毒針を突き刺そうとしてくるため、ドリスは空を飛びながらも応戦を行う。



「キィイイッ!!」

「しつっ……こいですわ!!火炎槍!!」

「ギィアッ!?」



背後から突き刺そうとしてきたドクハチに対してドリスは片手を向けると火炎を放ち、もう片方の腕で風圧の魔法を発動させながら体勢を保つ。


ドリスの新しく編み出した「氷翼」は風圧の魔法を利用して加速を行い、背中の氷塊の魔法で作り出した氷の翼でバランスを調整する。この方法ならば氷塊の魔法で作り出した乗り物を利用して移動するよりも安定した速度と機動力を誇るが、一方で高い集中力を必要とする。



「くっ……きゃあっ!?」

「キシャアッ!!」



飛行の最中に建物の角に隠れていたカマギリがドリスに向けて飛び掛かり、咄嗟にドリスは回避する事には成功したが、その際に彼女の衣服が少し切れてしまう。


慌ててドリスは体勢を立て直すと一旦空中で停止すると、後方から迫る昆虫種に攻撃を行う。



「このっ……火炎流槍!!」

『ギィアアアッ……!?』



両手に発生させた火炎の槍を次々とドリスは投擲を行うように放つと、数体の昆虫種が火だるまと化して地上へ落下していく。その様子を見てドリスは冷や汗を流し、これで追手を全て倒したかと思われた時、背後から強烈な熱気を感じ取る。



「ファイアボール!!」

「きゃあっ!?」



背後から熱気を感じ取ったドリスは驚いて振り返ると、そこには1メートルほどの大きさの火球が迫っている事に気づき、咄嗟に彼女は背中の氷翼を切り離して直撃を避ける。


氷の翼によって一瞬だが火球が抑え込まれ、その間にドリスは地上へと落下すると風圧の魔法で身体を浮かばせ、どうにか着地を行う。直後に火球が爆発すると、ドリスの氷翼を跡形もなく吹き飛ばす。



「この魔法は……まさか、!?」

「ちっ……生きていたか」

「馬鹿が、子供だと思って手加減しやがって……」

「残念だったな、ここから先は通さん」



街道に着地したドリスの前に数名の黒色のローブを纏った男たちが現れ、その手には小杖が握りしめられていた。どうやら先ほどの攻撃は彼等の砲撃魔法らしく、ドリスは即座に警戒して両手に氷塊の魔法で作り出した盾を生み出す。

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