第64.75話 入学前の適性検査
「ははっ、驚いただろう?王都の外から来た人は君の様な反応を良くするよ。僕も外から来たんだけど、凄い人口だろう?この王都には国中から色々な人たちが訪れるからね」
「はい、驚きました……祭りの日でもこんなに人が大勢いるのは見たことがありません」
「まあ、ここで暮らす事になったらすぐに慣れるさ。さあ、辿り着いたよ……あそこがこの王都が誇る王城さ」
「わあっ……凄い!!」
レナの視界に立派な城が映し出され、この王都に存在するどんな建物よりも巨大な建造物に感動する。今までに通過した街の中にも城が建てられている街はあったが、王城の場合はレナが見た城の中でも規模が大きく違い、少なくとも普通の城の倍近くの大きさを誇った。
兵士の話によるとヒトノ国の王城を作り出したのは人間だけではなく、手先が器用な小髭族と怪力を誇る巨人族の強力も得て作り上げられたという。どれだけの費用と時間を費やせばここまで立派な城が出来上がるのかと関心を抱く一方、レナはこれから自分が王城へ入るという事に緊張を隠せない。
(ここで魔法学園の入学の手続きを行うのか……どきどきしてきた)
事前に送り込まれた紹介状には魔術師の称号を持つ人間は王城にて手続きを行う事が記されているため、そこで検査を受ける必要があるという。試験ではなく、検査という言葉に引っかかりを覚えたレナだが、自分が城の中に入れると知って内心では高揚感を隠せない。
(城の中はどうなってるんだろう。もしかしたら、お姫様とか王子様とかに会えるのかな……ああ、緊張するな)
普段はあまり取り乱さないレナだが、自分が城の中に入れるという事に興奮を隠しきれず、やがて兵士の馬が城の城門の前に近付く。このままレナは城門を潜り抜けるのかと思ったが、兵士は城門の前で道を変え、回り込むように移動を行う。
「え、あの……?」
「ああ、城門から入ると思ったのかい?悪いけれど、僕のような一般兵は城門から入る事は出来ないんだ。だからいつも城の裏手の方から入ってるんだ」
「あ、そうなんですか」
残念ながら位の低い兵士は正門を通って入城する事は許されないらしく、レナを乗せた馬は王城の裏手に存在する小さな門の前に立ち止まり、そこから中へと入る。思っていた以上に地味な場所から入る事にレナは落胆を覚えるが、文句は言えずに兵士の後に続く。
何はともあれ城の中に入り込んだレナは案内の兵士と共に通路を通ると、途中で場内の中庭の様子を確認する。そこには大勢の兵士が存在し、訓練に励んでいた。
『せいっ!!はっ!!せいっ!!はあっ!!』
「もっと気合を込めて声を出せ!!その程度の気迫ではゴブリンにも笑われるぞ!!」
大勢の兵士が槍を突き出し、その兵士達の指導を行っているのは恐らくは国の将軍だと思われ、立派な髭を生やした男性が怒声を放つ。その迫力にレナは圧倒され、一緒に付いてきた兵士も冷や汗を流す。
「お、驚いただろう?あの人はこの国でも3番目に偉い将軍なんだ。凄い気迫だろう」
「は、はい……凄い人なんですね」
「おっと、こうしている場合じゃなかった。すぐに君を魔導士の元に連れて行かないと……こっちだよ、付いて来て!!」
「魔導士……?」
兵士は自分の役目を思い出したようにレナに付いてくるように促すと、彼は兵士達の邪魔にならないように中庭の隅を通り抜けた後、城内に存在する大きな塔型の建物の前に辿り着く。どうして建物の敷地内にこのような建造物があるのかとレナは戸惑うが、ここが魔法学園の生徒が検査を行う場所らしい。
城内の敷地内に建てられた塔の前にはローブを身に付けた中年男性が数名立っており、その中心には50代半ばぐらいの男性が存在した。その男性だけが他の者が黒色のローブを身に付けているのに対し、一人だけ赤色のローブを纏い、椅子に座って円卓に置かれた紅茶を味わっていた。兵士はその様子を見て慌てて駆けつけると、男性の前で敬礼を行う。
「魔導士様!!魔法学園の入学希望者を連れてまいりました!!」
「ふん、まだいたのか……これでは碌に茶を楽しむ暇もないではないか」
「あの……」
「気やすく話しかけるな!!この方を誰だと思っている!?この国を支える魔導士様だぞ!!」
レナは老人に話しかけようとすると、他のローブを身に包んだ男達に阻まれ、その様子を見ていた兵士は慌てて彼を庇う。
「お、お待ちください!!この者はまだ子供で、しかも田舎から来たのです!!だから王都の常識はまだ学んでいないのです!!」
「何?魔導士様、どうしますか?」
「構わん、さっさと検査を終わらせろ」
「はっ!!おい、こっちに来い!!そこのお前はもう帰っていいぞ」
「え、ええっ……失礼します」
「……ここまでありがとうございました」
兵士の言葉を聞いて老人はローブの男達に指示を与えると、兵士を先に帰らせてレナを塔の中へと案内させる。老人の態度にレナは思うところはあったが、さっさと検査を終わらせたいという気持ちもあって黙ってついていく。
塔内に移動すると、最初にレナが目にしたのは床に刻まれた巨大な「六芒星」の魔法陣だった。そして六芒星の周囲には6つの台座が設置され、その上には大きな水晶玉がはめ込まれていた。魔法陣の中央にも同じように水晶玉が世知された台座が存在し、その場所にレナは移動するように促される。
「その台座の前で掌を翳せ。そうすれば検査が始まる」
「はあ……あの、検査というのは何を調べるんですか?」
「それは……」
「いいから黙って言う事を聞け!!質問は許さん、さっさと始めろ!!」
「…………」
中年男性の集団の後ろから付いてきた老人が怒鳴りつけると、レナは彼の横暴な態度に不満を抱きながらも言う通りに従う。台座の前でレナは掌を構えると、その瞬間に水晶玉が紅色に光り輝く。唐突に水晶玉が光り出した事にレナは驚いたが、それを見ていた他の人間達の方が更に驚く。
「こ、この光の色合いは……!?」
「馬鹿な、あり得ん……何だこの光の強さは!?」
「おい、見ろ!!他の水晶玉は全く反応していないぞ!?いったいどうなっている……!?」
「これはまさか……そういう事か、全く何という事だ」
「え、あの……?」
レナは周囲の人間達の反応に戸惑い、とりあえずは台座から手を離すと水晶玉の光が収まり、改めて老人と向き合う。老人は自分を見つめてくるレナを見て鼻で笑い、彼の傍に存在する水晶玉を見た後に怒鳴りつける。
※1話じゃまとめきれなかったので分割して2話になりました。明日からは普通に本編に戻ります。
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